東京喰種/月山/溺愛される料理人

「月山様…今回は此方をお召し上がり下さい」

「ありがとう、なまえ」

カシャン、
赤い薔薇の模様をあしらった白のお皿を
月山家のご長男…私の主である月山習様のお席の前にゆっくりと置き、ナイフを右に、フォークを左にと、順番に置いて小さく月山習様におじきをした。

蓋を開けてほしい、とリクエストされたので私は「はい」頷き、お皿に被せられた銀色の蓋を丁寧にとった。そしていつものように料理名を口にした。

「月山様…今日のお料理は、アヒージョでございます」

「ほう…」

今日月山様のためにお作りしたのは絵の具の赤色よりも濃くて、日本の牡丹よりも美しい色の血のスープ…そして海老に見立てた指をあしらったアヒージョ。

いつも料理には厳しい、美食家である月山習様…。今回は何を言われるか少しだけびくつきながら月山習様がお口に料理(という名の人間の肉)を運ぶのをまった。

月山習様はまず指を口に運んだ。
そして目を瞑り、天を仰ぎ、ふむ…と溜め息をつかれた。

「なまえ…また腕が上がったようだね」
「……っ!め…滅相もございません!!」

目を開けて、私の方を見て口角を上げて笑う月山様は、嬉しそうにフォークとナイフを指揮棒のように振った。

「月山様のお口に合って良かった……!」

私が安堵の表情を見せると、月山様はスープをズズズッと(いつもは残すのに)珍しく一気に飲み干して私の方をビッと指差し、こう言った。

「君は…なまえは僕の好みを良く理解し、僕の味付けにしてしまうな…perfect!」

「はい…?」

「分からないかい?僕は君が気に入った…!そう!ますますね!」

「月山、様…?」

「なぜ僕のネームを読んでくれないんだい?」

あ…あの、その…
驚きすぎて訳がわからなくなってしまった。
頭が真っ白で、月山様の言ったお言葉の意味が分からなくて口があんぐりと空いてしまい、閉まらない。

調味料を間違えたのだろうか…
血の量を間違えたのだろうか…?
どうしよう、と悩んでいる私に、月山様はもう一度質問をぶつけてきた。

「なまえ…僕の名前を読んでくれたまえ」

「わ…私は…月山様の料理人であって…!そのような無礼なことは……!」

「呼びたまえ」

月山様はいつものポーズでわたしの言葉を無視して、反強制的に私の口を開かれた。
ひやりとする冷たい指が、唇に当たる。
ああ、これは仕方ない。命令に従おう。体が反射的に月山様の命令に従い、口が開く。

「しゅ…うさま」

「よし!キュートな響きだ…美しいよ…ますます愛したい」

習様は今度は顔のギリギリまで近付いて来て私の鼻を撫でた。
正直くすぐったい…だけど主の命令には逆らえない。

「なまえは綺麗な眼球だね。その青の中に混ざった碧がなんとも言えないな…」
「習様…?」

「もっともっと愛を注いで、その眼球を食べてみたいな」
「……!」

グールである私は、傷付いても再生するから怖くはないが
目玉を食べられるのは…恐怖する。

「…しゅ…習様……」


習様はそう言って私に覆い被さり手刀のようなものを私の顔の近くに向けて、少し笑った。

主は本気になると目が変わる。
見開き、獣のごとき鋭い眼差しに変わる。
そうだ…昔飼っていた猫が野鳩を捕まえてきて「自分の獲物だ、手を出すな」と題して食べている時のように…

気に入られたのは分かる…でも
食べられそうになるのは、怖い。

「…ふふ…冗談さ」

手をどけて、体を起こし、パパン!と手を合わせ、拍手の様な仕草をした習様は、気味悪く微笑んだ。
そして一言私にこう言う。

「僕は気に入ったものは、手元に取って置く主義なのさ…」

「は……!」

"だから安心して僕の料理人を
続けてくれたまえ"

"月山習"に気に入られたのはこういうことなんだ、
ようやく執事に言われたことの意味が分かった。







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お待たせしてごめんなさい!
月山さんは書くとどうしてもギャグに
なってしまいますね(笑)

雰囲気が伝わっていたら幸いです!

リクエストありがとうございました!




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