星になるための仮眠 | ナノ



「ふうん…」

半分警察の言うことを聞いてなかったが、ゴロツキ共と喧嘩した兄さんは四人いたゴロツキを四人とも病院送りにしたらしいのだ。

なんだ?日本じゃ良くある話じゃあないの?

「おかあさん。反省させてくださいよ反省を!!」

「はァーい」

もう一人の警官が母上に反省を呼び掛けていた。
母上は半分多分聞いてない。まあ、わたしも同じだけどね。警官の話は良いから私も母上も早く兄さんに会いたいのだ。

「しかし問題はそのあとです。変わってますなア、おたくの息子さん」

ピクリ、私の眉間が少し動く。
警官の言葉にイラつきを感じたんだか空気が変わるのを感じたんだか覚えてないが、とにかく何かが背中に伝わった。

兄さんの入れられている牢屋に足を進め、そこに着くと、警官が乱暴に柵を蹴った。そして兄さんにこう言い放つ。

「こらッ!起きろ空条ッ!お母さんが迎えに来てくれたぞッ!出ろ釈放だ!」

どうやら兄さんは釈放されて私たちと一緒に家に帰れるらしい。警察署には理由があっていつまでも兄さんを泊めておく訳には行かないらしい。然し、嬉しいな…高揚感だ。久しぶりに会えるし顔を見れる。新しい靴にして正解だった。だって大好きな兄さんに会えるんだからこれ以上のことはない。しかも母上と三人で我が家に帰れるのだ。

「兄さ……」

ん、と最後の言葉を掛けようとしたが、止まった。
だって…

迫力が違ったのだから………

「ゴクリ」

思わず息を飲むとは、この事だろうか……?

久しぶりに会うからか、それとも私のイメージしていた兄さんとは大分違ったからか…其にしたところ迫力がある。
こんなにこの人は迫力があっただろうか?


「なんだ…おふくろに襄か、フン!帰りな…俺は暫くここから出ない」

兄さんが口を開いた。
私と母上の方を見て指を指し、低い声でそう言った…。

「おれには『悪霊』がとりついている…『そいつ』はおれに何をさせるかわからん。さっきのケンカの時もおれはその『悪霊』を必死にとめたんだ……」

迫力あるトーン、そして表情、全て映画の中にエキストラとして入ってしまったかのような、そんな雰囲気のなかに私達は居た。
目の前にいるのは兄さんの筈なのに……


「だから…だから俺をこの檻から出すな。」

再び寝転がり、私たちに背を向けて話をやめてしまった。
母上は真剣な眼差しで兄さんの名前を呼ぶ。
私は「…まさか」とは思ったが、兄さんには口を出さず、壁にもたれ掛かった。

警官が愚痴をこぼす中、やたらと煩いと思えば兄さんと同じ檻の中の奴等がヒーヒーと喚きながら私たちに助けを求めてきたのだ。半泣き状態のやつも居た。

「おれたちは知っているッ!こいつには本当に悪霊がとりついているんだ」

「もう悪事は働きません!だからこいつといっしょの部屋は嫌だーッ!」

そんな大袈裟な…きっと檻に入りすぎて馬鹿になったんだろ。私はフッと少し笑いながらもう一度兄さんの方をみた。

プシューッ

何かが開く音がした。缶か何かが。
あれ?さっき檻の中に缶なんてあったっけ?

兄さんが缶をベコベコ開けてビールを飲んでいるではないか。いつのまにか。

「ろーやの中でビールを飲んだ!き…きさまッ!どうやってそれを持ち込んだ!?」

警官が驚きの顔をしているなか、
檻に一緒に入っているヒイイー!と悲鳴を挙げていた。

「だからいったろう。『悪霊』だよ『悪霊』が持ってきてくれるんだ」

次々と兄さんの近くで起きる不思議な現象…
私は夢でも見ているのか?


「待ちなッ!この程度のことじゃあまだ釈放されるかもしれねえ……『悪霊』のおそろしさを見せてやる」

「俺を外に出したらどれだけ、やばいかをおしえるためには」

警官が応援を呼びに行こうとしたとき兄さんか呼び止めた……

「は!」

私には見えた…ー!
兄さんの肩から風を呼び、もう一つの手を出して警官の右の腰から拳銃を奪い、兄さんに渡した。
兄さんは私たちに銃口を向け、こう解いた。

「てめーら見えなかったのか!今のおれの『悪霊』が!!」

「兄さんっ!!」
私には見えた。見えたのだ。


「見えないのなら…」

「これではどうだ?」  


カチリ、と銃口を自らの頭に当て、銃の引き金を引く………。


「じょ…承太郎ーーーーッ」

母上が青ざめて兄さんの名前を呼び、叫んだ。ガーーン

嫌な音が牢屋中に響き、誰もが兄さんは死んだ、と思った。
私だって兄さんが死んでしまう!と思った。
だって銃口を頭に向けるなんて自殺行為だ。それに死にたい人がやることだろう?

だけどこの安心感はなんだろう。

みんなには見えていないのか?
『悪霊』なんかじゃない。守護神らしき腕が。


「おれのうしろに誰かいる!最近とりつかれたみたいなんだ」

荒い息をして、少し苦しそうなそんな何かが。

私には見えた。





prev / next

BACK
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -