そいつは、スター・プラチナの手を貫いた。
兄さんはそいつの口針を歯で食い止めたが、力は向こうも強い。冷静を保たなければ奴の口針はどんどん進入してしまう。
「承太郎のスタンドの舌を食いちぎろうとしたこいつは…やはりヤツだ!…タロットでの『塔のカード』!…破壊と災害…そして旅の中止の暗示をもつスタンド…」
『灰の塔(タワーオブグレー)』!
「アヴドゥル、何なんだ。そいつは」
「うわさには聞いていたスタンドだがこいつがDIOの仲間になっていたのか!『灰の塔』は事故に見せかけて大量殺戮をする『スタンド』!」
「たとえば飛行機事故!列車事故!ビル火災などはこいつにとってはお手のもの。いや!すでに昨年のイギリスでの三百人を失った飛行機墜落はこいつのしわざと言われている。DIOの命令か!」
「なんつー質の悪いヤツなんだ……!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!はっ」
兄さんのスタンドのスピードラッシュパンチは確かに当たったように見えた。しかしかわされたのだ。
「クク…たとえここから一センチメートルの距離より10丁の銃から弾丸を撃ったとして…弾丸は俺のスタンドには触れることさえできん!もっとも弾丸でスタンドは殺せぬがな」
『灰の塔』は不気味に笑いながら私たちを愚弄する。
なんだか勝てる気がしない。弱音を吐いてはいけないが、汗は吹き出すばかりだ。
機内は怪しい空気が漂い、乗客は皆目を瞑って眠っている。その中から『灰の塔』の本体を探すなんて目を凝らして探さなきゃ分からない。だけど乗客は寝息ひとつ立てない、みんなスタンド使いなのではないのか、そう思うくらいに不気味だ。
「は!」
『灰の塔』は羽音を立てて後ろの席に移動をした。
何をする気なのか、こっちに体を向けたと思えばまた長い口針を出し、寝ている乗客の舌を食い千切り始めたのだ。
「な…ッ!お前!!!」
「ビンゴォ!舌を引きちぎった!!そして俺の目的は…」
ヤツは引きちぎった舌で器用に機内の壁にこう書いた。
『Massacre!(みな殺し!)』
「や…やりやがった!!」
「焼き殺してやるッ『魔術師の赤』!」
「まて!待つんだアヴドゥル」
アヴドゥルが怒りから魔術師の赤を出し、灰の塔を倒そうとした時、花京院が待ったをかけた。
「うーんムニャムニャ。なんか騒がしいのォ何事かな。ウ〜〜ン。トイレでもいくかの」
起き上がったのは一人のお爺さん。何だかわざとらしい。
あれ?おかしいな。
乗客は確か灰の塔に舌を引きちぎられて喋られない筈では?
「あて身」
「他の乗客が気付いてパニックを起こす前にヤツを倒さねばなりません。アヴドゥルさん。あなたの炎のスタンドはこの飛行機までも爆発しかねないしJOJO…君のパワーも機体壁に穴でも開けたりしたら大惨事だ!!」
花京院はお爺さんに当て身を食らわし、パニックを防ぐことにした。確かにこのまま墜落なんて末恐ろしいこと想像したくない。早く本体を倒して目的地に到着せねば。
ここは花京院に任せるとしよう。
「ここはわたしの聖なるスタンド『法皇の緑』こそヤツを始末するのにふさわしい」
「クク。花京院典明か。DIO様から聞いてよーく知っているよ。やめろ…自分のスタンドが「静」と知っているなら俺には挑むまい…貴様のスピードでは俺をとらえることはできん!!」
「そうかな」『エメラルドスプラッシュ!!』
初めて目にした。花京院のスタンド、『法皇の緑』そして「エメラルドスプラッシュ」…それはなんと美しいことか。ダイヤのような、宝石のような固まりが何個も飛び交い、辺りは『法皇の緑』の名の通り緑色に染まる。
「まずい!やはりあのスピードにかわされたッ」
灰の塔はまた素早い動きで「エメラルドスプラッシュ」を交わし口針を出した。『法皇の緑』は攻撃を受けてしまった。花京院の口から血が溢れる
「か…花京院!」
「ファハハハハハ おまえなあ数打ちゃ当たるという発想だろーがちっとも当たらんぞ スピードが違うんだよ。スピードが!ビンゴにゃあのろすぎるゥゥゥゥゥ」
「そして花京院!次の攻撃で今度は貴様のスタンドの舌にこの「塔針(タワーニードル)」を突き刺して引きちぎる」
『エメラルドスプラッシュ!』
「分からぬか ハハハハハハハーーーッ!おれに舌を引きちぎられるとくるいもだえるンだぞッ!苦しみでなァ!」
「ま…まずいッ!またエメラルドスプラッシュをかわされている!」
花京院の「エメラルドスプラッシュ」はまた外れた。
しかし落ち着いた様子の花京院。その表情は余裕で笑っていた。
「なに?引きちぎられるとくるいもだえる?」
「わたしの「法皇の緑」は…」
「な、なにィィィ!?」
「引きちぎるとくるいもだえるのだ。喜びでな!」
「法皇の緑」から出た触手のようなものが灰の塔の体を突き刺す。そして灰の塔の体をズタズタに引き裂いた。あっという間に。
あれほど綺麗だと思った法皇の緑からは考えられないような攻撃。
「すでにシートの中や下に法皇の触脚が伸びていたのだ。エメラルドスプラッシュでそのエリアに追い込んでいたことに気が付かなかったのか」
「灰の塔の本体って…」
たまらず姿を表したのは灰の塔の本体。
花京院の法皇の緑にズタズタにされた本体はなんとさっきのお爺さんだったのだ。怪しいと思ったら…
「さっきのじじいが本体だったのか…フン。おぞましいスタンドにはおぞましい本体がついているものよ」
「気づいていたの?」
「フフ…いいえ」
「やれやれだわ。」
prev /
next
BACK