母上は、呼吸は落ち着き、眠りについていた。
アヴドゥルの話によれば、今はまだ背中だけだが、シダ植物のようなあの「スタンド」は、ゆっくりと母上の体を覆い包み、高熱などいろいろな病気を誘発して苦しませ、二度と目覚めない「昏睡状態」に入ってしまう…どんな名医にも直せない、と…。
「母上は死なせねえ…絶対に」
「ああ。私もホリィさんを助けたい。だから冷静に聞くんだジョー。希望はある。その症状になるまで50日はかかる。」
「分かってるさ……」
「その前にエジプトにいるDIOを倒せばすむことだ!DIOの体から発する「スタンド」の繋がりを消せば助かるのだ!!」
「ようはDIOのクソ野郎をブッ倒すために協力しろって事だろ」
「……ごもっとも。協力するな?」
「当たり前だ」
俺はアヴドゥルの話を胸に焼き付け、母上の眠る寝室へと向かった。そこには兄さんとジョセ爺が居た。
「あら!襄ちゃん。おはよう」
「母上……」
母上は元気そうに起き上がっていた。
「ほんと私ったらどうしちゃったのかしら。急に熱が出て気を失うなんて…でも解熱剤でだいぶ落ち着いたわ」
どうやら母上は自分に何が起きたかは気づいていないようだ。
「びっくりしたぞホリィ。どら。起きたら歯を磨かなくてはな……」
ジョセ爺が母上の歯を磨いて、顔を拭いて、髪をどかして、爪を切って、リンゴまで剥いて食べさせて、足まで拭いていた。まるで病人みたい。まあ、病人だけど。
「パパ下着も履き替えさせてーッ」なんてパンツをクルクルと指で回し「じょうだん」だと笑っていた。
いつもの母上の筈なのに…どうしてなんだろう。なんで母上なんだろう………。
いつもみたいに笑えない。
「さあてと…承太郎、襄ちゃん。今晩何食べる?」
「動くなッ!静かに寝てろーッ!!」
兄さんのデカイ声に母上が驚く。
やはりスタンドが見える背中に目がいってしまう。
「ね…熱が下がるまで何もするなってことだ……黙って早くなおしゃあいいんだ」
「母上…兄さんの言う通りだ。静かに寝てな」
「…フフフ、そうね。病気になるとみんなスゴく優しいんだもん。たまには風邪もいいかもね」
「ホ…ホリィ!ううッ!ま…また気を失ったぞ!!」
母上はまた目を瞑り、気を失ってしまった。
まるで眠るように……いつもの母上の笑顔は、見えない。
「クウ…ウウウ…き…気丈に明るく振る舞っていたがなんと言う高熱……今の態度で分かった。何も語らないが娘は自分の背中の「スタンド」のことに気づいている…逆にわしらに自分の「スタンド」のことを隠そうとしていた…わしらに心配かけまいとしていた!娘はそういう子だ」
悲しい顔の兄さんに…明るさを見せないジョセ爺…
いつもの空条家ではない、しんみりとした空間。
「かならず助けてやる安心するんだ。心配することは何もない…かならず元気にしてやる…安心していれば良いんだよ」
ジョセ爺の言葉に優しさに紛れた不安さが伝わってきた。
「かならず。助けるよ…母上…大好きな、母上…」
私は女の姿にもどり、母上の手を握り、涙を流した。
「JOJOとジョーのおかあさん……ホリィさんという女性は人の心を和ませる女の人ですね……そばにいるとホッとする気持ちになる…」
外で待つ花京院がこう呟いた。
「襄、こんなことを言うのもなんだが恋をするとしたらあんな気持ちの女性がいいと思います。守ってあげたいと思う……元気な温かな笑顔が見たいと思う」
「ああ。あの暖かさは…取り戻す」
「うむ。いよいよ出発のようだな…」
「行くぞ!」
決意を決めた私たちは、DIOを倒すべくエジプトへと旅立った。
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