花京院の一件があってから一晩たち、朝を迎えた。
空気が澄み、清々しい朝を迎え、起きてみれば、旭日が眩しい。目が眩みそう。相変わらず空条家は広い。でも…何かがおかしい気がする。
「今日こそはまじめに学校行くぜ」
「兄さん、私も一緒に行くよ」
私は慌てて着替え、支度をした。
「あれ…?」
「どうした」
「いつもなら母上がお弁当忘れないでね。愛情たっぷりだからって言って元気よく来るんだけどな…ていうか、兄さんに「いってらっしゃいのキスよ」って来てもいい時間なのに」
「…確かに妙だな…静かすぎるぜ」
「まさか!!倒れて…っ」
私たち二人は急いで家中、母上を探した。
お風呂場、洗濯機の近く、トイレ、行きそうな場所全て回った。
バタバタと駆け足で、鞄を玄関に置いてきたことなんてすっかり忘れ必死で母上を探した。
「ジョセ爺!!」
キッチンに向かうと、そこにジョセ爺が顔を曇らせ、立っていた。だけど母上の姿はない。
「非常にまずい…こ…このままでは…!」
アヴドゥルの声が聞こえ、キッチンの奥を覗く。
「「死ぬ!」「とり殺されてしまう!」」
嫌な一言が聞こえた。
それは、私にとって一番聞きたくなかった一言…ー
「は!」
苦しそうに息を荒くする母上の姿。
そして背中を見れば、ジョセ爺と同じ、いばらのような物が生えている。いや…とりついていた。
「……アヴドゥル……嘘だよね……?」
まさか、とは思っていた。
母上はジョースター家の血が流れているから、「スタンド能力」はあるかもしれないとは思っていた。でも、だけど…母上は平和を望むもの。私たちのように「戦う」意思なんてない。きっと「抵抗力」はないはずだと……ーだからこそ守りたいと思っていた。
だけど…けれどあまりにもそれ(スタンド)は残酷で、悲惨だ。
私はその場に、膝をついて絶望した。
「母上……」
「……ホ…リィ」
ジョセ爺も、いつものような陽気な姿を思わせるような明るさはなく、小さく震えていた。
兄さんだって、顔には出さないけど、悲しがっていた。
ジョセ爺が叫び、兄さんを障子に押し付け襟元を掴み、弱々しく話す。
「わ…わしの…わしの…も…最も恐れていた事が…おこりよった…つ…ついに…む…娘に…「スタンド」が…「抵抗力」がないんじゃないかと思っておった。DIOの魂からの呪縛に逆らえる力がないんじゃあないかと思っておった……」
ジョセ爺が絶望に暮れるなか、兄さんは諦めてはいなかった。
「言え!「対策を!」」
ジョセ爺の義手をガシッと掴み、冷静な顔で言う。
ギリギリと力を入れていたあたり、悔しいんだと思った。
そして、ジョセ爺は母上を抱き締め、「対策」を言う。
「うう…く…ううう……ひとつ」
「何……?」
「DIOを見つけ出すことだ!DIOを殺してこの呪縛を解くのだ!それしかない!!」
力のこもった一言が、胸に刺さった。
やはりDIOを殺さなければ、ジョースター家の血筋は収まらないのだ。全てやつが元凶なのだと改めておもう。
「やるよ、私は。絶対だ」
「しかしわしの念写ではやつの居所はわからんッ!」
「やつはいつも闇に潜んでいる。いつ念写しても背景は闇ばかり!闇がどこかさえわかれば…いろいろな機械やコンピューターで分析したが闇までは分析できなかった」
「おい。それを早くいえ。ひょっとしたらその闇とやがどこか…」
「わかるかもしれねえ!」
兄さんのスタンドは、真っ黒な写真を目をギラつかせ、隅々まで見た。
「DIOの背後に空間をみつけたな」
さすが兄さんのスタンドだ。
真っ黒な写真から何かをみつけたらしい。
正確で精密な動きができるスタンドは何かをスケッチし始めた。
「ハエだ。空間にハエが飛んでいたのか!まてよ…このハエはッ!し…知っているぞ!!」
アヴドゥルが辞書を開き、パラパラと捲り、私たちに見せてくれた。このハエの名前は「ナイル・ウェウェ・バエ」。
エジプト・ナイル河流域のみに生息するハエらしい。
…ということは…
「エジプト!やつはエジプトにいるッ!それもアスワン付近と限定されたぞ!!」
「エジプト…!!」
「やはりエジプトか……いつ出発する?」
「花京院」
「…典明!」
「わたしも脳に肉の芽を埋め込まれたのは三ヶ月前!家族とエジプトナイルを旅行しているときDIOに出会った。ヤツは何故かエジプトから動きたくないらしい」
なぜDIOがエジプトにこだわるのかは分からないが、早くやつを倒したい。早くヤツを…そんな気持ちでいっぱいだった。おそらく兄さんもそうだろう。
「同行するだと?なぜ?おまえが?」
「そこんところだが…なぜ同行したくなったのかは私にもよくわからないんだがね…」
「ケッ」
「……お前のお陰で目が覚めた。ただそれだけさ。君にも感謝するよ。ジョー」
「よくわからんやつだな…」
花京院は目が覚めたとか言うけど…私はまだわからんやつだから信頼度は30%くらいだよ?
「JOJO。占い師のこの俺がお前の「スタンド」の名前をつけてやろう」
「名前?…そっか…呼んだことないもんね」
「ああ、ジョー。名前はあった方が良いだろう?」
「そうだよね」
「運命のカードタロットだ。絵を見ずに無造作に一枚ひいて決める。これは君の運命の暗示でもあり、スタンドの能力の暗示でもある」
兄さんがひいたカードは、
「星のカード!名付けよう!君のスタンドは『星の白金』(スタープラチナ)」
「スター…プラチナ…」
カッコいい名前だ。精密な動きと豪快な力の二面性を持つ、パワフルな名前。本当にカッコいい。
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