人には見えねえモノ…承兄さんはそれを「悪霊」と呼ぶ。じゃあ、俺はそれと同じモノを持っているのか。この体質はそうなのか?俺が今、男の姿になっているが看守達には其れが見えていない。ということはやはり同じモノなんだな。
「な…なにをやってるんだやつらッ?空条のやつが壁にへばりついたまま動かないが何か見えるか?」
「わ…わかりません…し…しかしこの留置場内…異常ですッ!あ…暑…いや熱すぎる!」
牢屋の中の温度はグンと上がり、45℃を超えた。熱い。
恐らく『魔術師の赤』の影響だろう。でも看守には見えていないらしく、こちらを不思議そうに見ている。普通の人には分からないのだろうか。
「つ………ついに「姿」を見せたか」
それは人型をしていた。
兄さんを守るように攻撃を防ぎ、
顔に模様のようなものがあり、手足は立派な筋肉質で、グローブのようなものをはめ…何よりも表情が邪悪で、いかにもワルって感じだった。
そいつはアヴドゥルの首を締めた。首に手形がつくほど力強く…
「ほう。ここまではっきりとした形で出せるとは…意外ッ!」
「きさまもおれと同じような…『悪霊』を持っているとは…そしておじいちゃん、あんたは『悪霊』の正体を…」
「知っている…しかしアヴドゥルも驚いているように『悪霊』の形がこんなにはっきりみえるとは相当のパワーだ!!」
確かに、人の皮膚があんなに食い込むなんて相当のパワーだ。まだ力があると見た。
手加減はしねえ方が良い。承兄さんが死なない程度にお願いしたいもんだがな。
「やめますか?このままどーしても出せ、というのならお孫さんを病院に送らなければならないほど…荒っぽくやらざるおえませんが!」
「かまわん試してみろ」
アヴドゥルが「イエッサー」という勢い良いの掛け声と共に出したのは炎の鞭の様なもの。それで兄さんの口を塞いだ。少し手荒だが、兄さんの動きを弱めることが出来た。
本当は、見ていて不安だったが、『悪霊』を鎮めることが出来るのなら、ジョセ爺たちに任せるしかねえ。
熱さのせいか、悪霊が兄さんの体にひっこんでいく。
「正体をいおう!それは『悪霊』であって『悪霊』ではないものじゃ!」
ジョセ爺が真剣な面持ちで語りだしたのは、悪霊の正体。
そしてどうして私たちに見えるのか、説明しはじめた。
「承太郎!悪霊と思っていたのはお前の生命エネルギーが作り出すパワーある像なのじゃ!そばに現れ立つということからその像の名づけて……『幽波紋』!」
幽波紋(スタンド)……
俺たちが前から見えていたのは悪霊ではなく、生命エネルギーだったのか。
俺が色々と考えているうちに息苦しさからか、兄さんが口を開く。降参するのかと思いきや、頭のいい兄さんがそんなことするわけがなく…
監獄の中にある便器を足で蹴りあげ、勢いで配水管をぶっ壊し「魔術師の赤」の炎を消したのだ。そして鉄格子を己のスタンドで曲げ、叫んだ。
「おおおおお!てめー、おれはもう知らんぞッ!」
曲げたうえに、鉄格子を折り先を尖らせて刀のようにしてしまったではないか。なんてパワーだ。思わず汗が出る。
そしてそのスタンドはアヴドゥルに襲いかかる。
だが、アヴドゥルはピタリと後ろを向き、スタンドを己の中に仕舞い込んでしまったのだ。
「アヴドゥル?お前…」
『きさま、なぜ急に後ろを見せるのかッ こっちを向けいッ!』
スタンドが叫ぶなか、
アヴドゥルが地面にストンと座るとこう言う。
「ジョースターさん…みてのとおり彼を牢屋から出しました…が」
そう言ったアヴドゥルの姿を見た兄さんは、己のスタンドを
体の中に仕舞った。よく見れば足が牢屋から出ていた。アヴドゥルの言う通りだ。そして兄さんはため息をひとつ。
「してやられたというわけか?」
「まあ、お前の焼けた姿なんて見せたら悲しむ御仁もいるからな…妹君なんて特にな」
「わたしは…」
牢屋から出た(出された)兄さんは、仕方なく私たちに従った。しかし本当に兄さんの力は強かったらしく、皆驚いていた。俺もそうさ。
しかしもし兄さんが鉄棒を投げるのをやめなかったらどうなっていたのやら…やれやれ、気になるが検索はやめだ。
落ちた鉄棒が光輝くのを見てそう思った。
「わー承太郎ここを出るのね!」
「ウットーしいんだよ、このアマ!」
「はあーい、ルンルン!」
母上は嬉しそうに兄さんの腕にベタベタとくっついている。
ジョセ爺に説教されながらも、ニコニコと笑う。本当に嬉しいんだな。ああ、日常だな…また、戻れるんだな。
しみじみ実感した、三人の暖かさ。また我が家に戻れると。
「…襄…。そうか、今はその姿か…」
「はい。兄さん…。これが俺のスタンド、らしいな。でもこの姿で再会できて嬉しい…」
「また、兄弟一緒ってわけか…」
照れながら言った俺に、兄さんは少しだけ笑ってくれた気がした。
「おじいちゃん、ひとつだ!」
再会のムードは終わり。
兄さんの一言で、空気がまた変わった。
「ひとつだけ、今……わからないことをきく……。
なぜおじいちゃんは俺の『悪霊』、いや…そのスタンドとやらを知っていたのか?そこがわからねえ」
兄さんの質問に対して、ジョセ爺とアヴドゥルの表情がまた変わった。険しい顔に……そして懐から何枚か写真を取りだし、私たちに見せてくれた。
「いいだろう…それを説明するためにニューヨークから来たのだ…だが説明するにはひとつひとつ順序を追わなくてはならない。これはジョースター家に関係ある話でな…まず、この写真をみたまえ」
一枚目は船の写真だった。
ニ枚目は何か棺のようなもの。苔がついて如何にも古い。
三枚目はその棺のようなものの中身…そして四枚目はその棺のようなものの名前が書かれたプレートの写真。
四枚目に書かれていた文字はよく見えなかったが「D I O 」と三文字書かれていたように見えた。
「なんの写真だ?」
「…今から四年前、その鉄の箱がアフリカ沖大西洋から引き上げられた。箱はわたしが回収してある…分厚い鉄の箱は棺桶だ。ちょうど100年前のな…。棺桶はおまえの五代前の祖父…つまりこのわしのおじいさん、ジョナサン・ジョースターが死亡した客船につんであったものということは調べがついている」
「!?」
「中身は発見された時カラっぽだった。だがわしには中に何がはいっていたのかわかる!わしとアヴドゥルはそいつの行方を追っている!」
「『そいつ』?ちょい待ちな…。そいつとはまるで人間のような言い方だが百年間海底にあった中身をそいつと呼ぶのはどういうことだ?」
確かにいかにも親しいような言い方だ。
知り合いなのか?
「そいつは邪悪の化身!名はディオ!!そいつは百年のねむりから目覚めた男。我々はその男と闘わなければいけない運命にあるッ!」
淡々と喋っていた祖父のジョセフが、声を荒げ、私たちにつけだのは『ディオという男と闘わなければいけない運命』であること。
衝撃的な事に私は唾を飲んだ。
そしていつもの癖である爪を噛んだ。
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