空想世界の逃走劇 | ナノ



「買い物でも行きましょうか。ジョルジオ」
「外に…行くの…?」

父さんに言われて自覚した。外に行くのは何年ぶりだろうか。
学校は周りの人に馴染めなくて一週間で行かなくなってしまったしあまり食べない体質だから食べ物は気にしてないし普段の衣食住は困らない。だから買い物にはいかない。そんな感じだ。

「そうだ父さんと・・・おじいちゃんと行くといいわ!」
「そうですね。それがいい」
「え・・・・?」

承太郎おじいちゃんと買い物に・・・・?
「迷惑じゃあない?」と小さな声で問うとおじいちゃんは「お前が良ければいい」と答えてくれた。でも外に出たことがない私は、なんて答えを返せばいいかわからなくて黙ってしまった。その隙にもう二人で行かせるつもりであろう母さんが着替えとバック・・・それにこの間買ってきた私の靴まで用意して鼻歌なんかを歌って玄関に靴を置きに行った。その速さはギネス記録が取れそうなくらい。でも私が出掛けるのが嬉しそうで張り切っていた。なので仕方なく母さんに従っていつもの部屋着を脱いでベッドの上で畳むと母さんが選んでくれたインナーを着て少し寒いから上着を羽織って深呼吸を一つする。
「変じゃあない?母さん」
「うん。いいわとっても似合う」

そう言ってもらえてちょっと安心した。
髪型も母さんが三つ編みを結ってくれてバッチリ決まった。
さていざ階段を降りておじいちゃんの待つ居間に行くと、
足が震えてしまった。だって誰かと肩を並べて歩くのがちょっとだけ恥ずかしいから。

「さあ、いってらしゃい」
「気をつけて」

二人に見守られて私はおじいちゃんと出掛けることにした。
玄関が遠くに遠くにあると感じた。

「怖いか?」
「・・・ううん」

大丈夫といえば嘘になる。周りの目も気になるし自分がどう見られているか分からなくて嫌。口の横にある小さなほくろだって気になって口元を隠す。口もカピカピで乾燥しているし、ヒールが高い靴だから躓かないか不安だ。
足取りが重く、おじいちゃんが私に足取りを合わせてくれている、そんなふうに思えた。
おじいちゃんは身長が高いから足も私より長いし歩幅も広いから。

「今日は出掛けるのは一時間だけにしよう。負担はかけたくない」

ああ、また迷惑をかけてしまう。
そんな風に思ってしまう自分が嫌。
ぎゅっとおじいちゃんの裾を掴んで必死に自分の精神を保とうとする。

「・・・・わかった」

掴んだ裾にシワができた。
強く握りすぎてしまったんだ。

うつむかないと決めたのに・・・それを破ってしまった。

すると、おじいちゃんは私をひょいと持ち上げて、近くのベンチに座らせてくれた。
そして靴を脱がしてかかとを見せるようにと指示してきた。
大きい手に包まれた小さくて形の悪い足が恥ずかしくてならなかった。
ただ祖父をたくましいと思うのはいけないだろうか。感情が入り乱れて抑えられない。だけど慣れてきたのか、いつの間にか私の心拍数は落ち着きを取り戻した。

「今日は、ここまでだ。また明日だな」
「ごめんなさい・・・・私・・・・」
「謝らなくていい・・・家に帰って暖かい紅茶を飲もう。俺も外は苦手なんだ。特に人が多いところはな」

擦りむいたかかとにハンカチを巻いてくれておじいちゃんはまた私の手を優しく握ってくれた。そして家の方向へと足を進めた。決して焦らずに私の歩幅に合わせるように。
今日のお出かけは失敗・・・。自分はもう少し強くならなきゃと胸に誓った。










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