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※自傷行為。流血表現あり。
「…ジョルジオ、聞きたいことがある」
「なに?おじいちゃん」
夏の日差しが照りつける午前中、おじいちゃんとお茶をしていると、おじいちゃんがティーカップをティーカップの受け皿にカチャリ、と静かに乗せて一旦黙った上で私に話を持ちかけた。
父さんと母さんは買い物に出掛けているから家には私とおじいちゃんだけだった。
「最近、自分で自分に傷を付けたことがあるか?」
「!」
何かを感じ取ったのか、膝の上でスヤスヤと眠っていたチロが、床に降りて自分の寝床へいってしまった。
「…それは…えっと……」
「答え難い質問だったか…気にするな」
「っ!今、できるよ!」
「何をーー…!」
私は台所へ駆け寄り、引き出しからナイフを持ち出し、手首へそっとあてがった。そして勢いよくナイフを引き、血管の上、つまり手首を切った。
「ジョルジオ……お前……」
パタリパタリと血が床へ流れ落ちた。
久しぶりに見たその赤々とした鉄の臭いの混ざる其れは、冷たかったしやはり痛い。
「大丈夫だよ…おじいちゃん」
そうだ。
いくら自分を傷つけたってこの傷は治ってしまう。
鋭く尖ったものを刺そうが、殴ってアザにしようが、治る。今もそう。血が流れなくなったと思ったらやはり、傷口はシュワシュワと音を立てて、自分から治癒していく。
あまり人に見せたことがなかったから、息が荒くなり、心臓が踊って落ち着かない。
おじいちゃんは鳩が豆鉄砲でも食らったかのようにポカンともせず、マジマジと私を凝視して暫くしてから居間から箱状の、十字架マークのついた何かを持ってきた。
ああ救急箱だ。
救急箱見たのは何年ぶりだろう。
前一回だけ絆創膏をつけるために出したっけ。
「見せなさい」
そう言っておじいちゃんは私の手に手を寄せて包帯を巻いてくれた。血はもう止まったし、傷口は閉じたのに…
「もう傷付けろとは言わないからこんなことはやめなさい」
「……うん」