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「おい、セシル、泣いているんじゃないか?」
「………違う」
「…さてはフラれたな…」
「違うわよ!」
ディエゴ兄さんは勘が鋭いから嫌い。
泣いているっていうのは本当。
目頭から溢れる涙を止められないほど泣いていた。
フラれた。っていうのも本当。
同じクラスの子に思い切って告白したら彼女が居るから、とあっさり断られた。
「…泣きすぎだろ…違う男くらい他に居るだろう?また恋すればいい話だ」
「……っ!ディエゴ兄さんには分かんないのよ!!もうどっか行ってよ……!」
私が声を荒げるとディエゴ兄さんは黙り込んで「ふう」と溜め息をついて台所の方に行ってしまった。
家族に声を荒げるなんて初めてかもしれない。
「ぐすっ…彼女が居る人には分かんないのよ……この気持ち……」
再び涙が込み上げてきて膝を抱え、忘れようと私は丸くなった。垂れてくる鼻をすすりながら。
「……おい」
ディエゴ兄さんに呼ばれて「何よ」と強気に顔を上げてみた。するとディエゴ兄さんがお盆にを両手で持ち、「これ」と言って私に何かを渡した。お盆に乗せられたものからは白い湯気が立ち、ほのかに甘い香りがした。
「…飲め。そして気持ちを落ち着かせろ」
「これ…ココア…?」
渡されたのはカップに入ったココア。私の好物だ。多分ディエゴ兄さんが作ってくれたんだと思う。
お盆には何故か二人分のカップが置かれていて、片方はディエゴ兄さんのマグカップだった。
「…なんで二人分…?」
「俺も飲むからだ」
「……あっそ」
そう言って、ディエゴ兄さんは私の隣にどかりと座り、ココアを一口飲んで、「甘い」と文句を言っていた。
「ココア……ありがとう…」
「セシル、落ち込んでもこの程度で治るからな。気を使ってやった。感謝しろよ」
湯気が立って美味しそうなココアを一口飲み、気分を落ち着かせた。やはりココアを飲むのは好き…。
ココアのお陰か、クラスの男子にフラれた事なんてどうでも良くなった。
「お前が沈んでいるとDIOが煩いからな…」
「……甘っ」
ディエゴ兄さんのしてくれた事がちょっぴりむず痒くて、ディエゴ兄さんの言ったことをスルーしてココアを一口、また一口、と飲んで聞こえなかったフリをした。
こういうとこ、かな…
ディエゴ兄さんがモテる理由って。
兄妹なのだが危なくときめくところだったのは秘密にして