紫原 敦(スプリング・キッズ) | ナノ


「交番ちゅれてけ」

なんかこの頃ぽかぽかあったかいと思ったら、なるほど。これが地球温暖化か。
近所のコンビニの前に座り込んだまま俺は考える。そういえば「頭がいい人はお菓子が好きなんだぞ」って誰かが言ってた気がする。ごもっともじゃんって思いながらまいう棒を食べきる。手に残った袋をとなりに並んでる燃えないごみ箱に放り込み、そして俺はさらなるおいしさとの出会いを求めてビニール袋を漁るのだった。目の前の黄色い帽子なんか知らない。

「交番ちゅれてけ」

さっきからなんなの。ひねりつぶされたいの。立ち塞がる幼稚園児はさっきからジャージの裾握って離そうとしない。俺今さあ、んまい棒で手が塞がってるから迷子なら余所当たってくんない。正直言っちゃえば欝陶しいからさっさと追い払いたい気持ちでいっぱいなんだけど、ほっとけば勝手にどっか行くはずだから黙っておく。チビは相手にしないのだ。うわあ俺ってば超オトナだし。
チビは帽子の下でぶっさいくな膨れっ面しながら言う。

「おにーちゃん交番の場所もわかんないのっ」

わかるに決まってんじゃんなめんなチビ。仕方なく俺は逃げ込んでいた日陰から重い腰を上げて、仕方なくぽかぽか陽気の下に身を晒したのであった。

やっぱジャージの上着てくるんじゃなかった。おでこにじっとり汗が浮かんで、べたべた貼り付く髪がものすごい不快。人より何センチか太陽に近い分、これからの季節は苦労するのだ。途中、脇を通り過ぎた小さな公園でピンクの花びらがきらきら光って吹雪いてるのを見た。見ながら、俺はおやつのあとの散歩を楽しんでいた。これあくまで俺の散歩だから。黄色い帽子なんか全然関係ないし。

「おにーちゃん肩ぐるまして」
「は?疲れるからやだしー」

関係ないけど、ただ散歩してるだけの俺のあとをチビはちょこちょこ必死に駆けながらついてきた。俺の散歩コースの中にたまたま交番が入っててよかったね。
チビは息を切らしながら俺を見上げてなにやら両手を広げてくるので、こっちは遥か頭の上から冷ややかな目で見下ろして迎撃する。幼稚園児だからってなんでもやってもらえると思うなよ。世の中お菓子みたいに甘くないんだぞ。
構わず再び歩きだしたのだけど、めんどいことに、ふと振り返るとすぐ後ろにチビの姿がなかった。豆みたいに小さくなって、さっきの場所から一歩も動かず座り込んでいる。なんなのあいつまじでひねりつぶしたい。適当にまいう棒放り投げたらどっか行ってくんないかな。しかし今月の全財産注ぎ込んだ貴重なまいう棒を犠牲にもできないので、俺は早いとこあの黄色い帽子を交番にシュートしてやるため、仕方なくUターンしてやるのだった。今日も昼は室ちんにおごってもらおう。
はあ、俺って罪なオトナ。

「おにーちゃんお菓子ちょーだい」
「やだ」
「ちょーだい!!」
「絶対やーだ」
「…何してるんだ敦」

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