おばけとピクニック | ナノ


真夜中のある一室で、マークとディランは暗やみに白々と浮かぶ画面を食い入るように見つめている。冷たいベッドのシーツの上にうつ伏せの状態で寝っころがって、そして私は2人の間でタオルケットを被ってうつむいている。時々中からそろそろとテレビを覗いてみるけども、血まみれの怖い顔した女の人に睨まれてたまらずタオルケットの中に退散した。さらに深く深く潜りこんで、ちかちか瞬く光も見えないくらいに目を瞑る。

「ぎゃあっ!」
「ははっ そんなに怖いのか?自分の国の映画だろう」
「いや、でも、ホラー映画はダメだってほんとに」
「ふーん ユーは怖がりなんだね」

左右の二人はといえば、そんな私を隙間から覗きこんでくすくす笑っていた。マークの瞳には余裕の色が、ディランなんか反射する光でゴーグルをつやつや輝かせてはまた、その視線を画面に向けて集中し始めていた。そう、端から見てもこの通り、私と2人との間には明らかな温度差が生じている。けれど彼らの場合、それを承知の上で私を自室に帰してくれないのだからとてつもなく厄介だ。是が非でも物語のエンドロールが流れるまで私を逃がす気はさらさらないらしい。

簡単に説明するならば、このホラー映画は一之瀬と土門、そして誰でもなく私がアメリカに帰ってきた時に2人にプレゼントしたお土産なのだ。それもアメリカ製の、愛敬のあるモンスターや愉快なゾンビが出てくるホラー映画には飽き飽きしていたマークとディランのために、日本でも飛びきり怖いものを選んであげたのだ。けれど結果がこれである。なんでホラー映画が大の苦手な私まで一緒に観なきゃいけないの!

「違うユウジ左じゃない!ユーのうしろにいるんだ!」
「やだやだやだもう無理、私部屋に帰る」
「これからがおもしろいんだぞ。もう少し」

それほど感情移入してるのか、ディランは画面の中の主人公の危なっかしい動きを懸命に指導している。彼曰く、日本のホラー映画はアメリカのそれと違って幽霊がなかなか姿を現さない。どこから飛び出すかわからない、その手に汗握る感覚がいいらしい。あの怖い顔の女の人が出てくる雰囲気を察した私は、がばりとシーツから起き上がった。けれども旧友はそれを許さない。な、と私の手を取るマークは丸めこむのが得意なのだ。
けれど私だって譲らない。負けじと声を張り上げて、物語のクライマックスだけは目にしないように必死に抵抗してみせる。

「ほんともう無理なんだってそろそろ私泣くよ!?」
「でもここまでちゃんと観れたじゃないか」
「マークの言うとおりさ。大丈夫!ミーたちがついてるよ」

「だから心配はいらないさ」そうつぶやいて私の両手を、2人は1つずつ手に取って固く結んだ。彼らにとっては優しい励ましのつもりかもしれないけど、私の立場からしたらこれは絶望的な温かい手錠である。ふざけるな今すぐ私を解放してくださいお願いします。そんな文句を言いたい私を、両手につながる体温はやわらかく抑えこめた。
なんだか言いくるめられた気分なるけれど、私は不思議に思う。なぜこうもこの2人の手は不安を吹き飛ばしてくれるような力強さを持っているのかと。幼い頃からの付き合いだからこそ生まれる安心感のせいなのか、それとも単に人肌の体温が染みるせいなのか。理由が何であれ、きっとユニコーンの選手たちはこんな2人に支えられてきたからこそ世界大会にまで勝ち上がってこれたに違いない。

「…夢に出てきたらマークとディランの責任だからね」
「あっ ゴーストが出てきたぞ」
「おおおおおっとお」
「イエス!ファイト!ユウジ!」

まあ、でも、とりあえずもう少しだけがんばってみようかな。2人のおかげで生まれた小さな勇気を振り絞り、私はタオルケットを足元へ追いやってテレビと向かい合った。怖い顔の女の人が悲鳴を上げながら画面に近づいてくる。けれどさっきに比べればなんてこともなくなった。こうして私たちは体温を結んだまま、一室の夜はだんだんと更けていくのであった。

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テーマ「人外ファンタジー」
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