short story | ナノ


雪が深く降り積もった、早朝のホグワーツ。まだ誰もが夢の中を泳ぎ回っている今、氷のように冷たく薄暗いグリフィンドール寮の階段を忍び足で降りてゆくのは教員たちの悩み種、ウィーズリー家の双子のフレッドとジョージだ。
これからゾンコの店でいたずらグッズを調達したあと、寝起きのロンにしゃっくり飴をお見舞いする作戦を頭の中で企てながら、談話室を横切る彼らは嬉々とした顔を見合わせた。こんな朝方だ、フィルチやミセス・ノリスも見回りに気を抜いているに違いない。二人は出入口の穴に手をかけた。

「いたずらしに行くの?」

突然かけられた声に驚き、フレッドとジョージは思わず肖像画の穴から飛びのいた。自分たち以外に生徒はいないと思いこんでいた談話室。実はそこには膝を抱えて暖炉の傍のひじ掛け椅子にちょこんと座る女子生徒がいたのだ。寮に住み着いた亡霊かと思いきや、たしか同じ学年の…名字。名字名前だ。顔と名前は知ってるけれど、取り巻く雰囲気からして今まで話すタイミングがつかめなかった子だ。
あんまり人形みたいにじっと息を潜めているものだから気がつかなかったらしい。フレッドとジョージは呆気にとられていた。

「こいつは驚いた!こんなに早く悪巧みがばれるなんて」
「ああ、想定外だったぜ」

二人は彼女の向かいの椅子に腰を下ろして、ぐるぐる首に巻き付けていたマフラーを取った。企みが不発に終わってもどこか楽しげだ。女子生徒は不思議そうに二人に投げかける。雪みたいに白い肌と、燃えるような赤毛が暗がりの中で映えている。

「やめちゃうの?いたずらすること、私誰にも秘密にしておくのに」
「誰にもばれないことが、いたずらの醍醐味なのさ」

さすがは双子、そろって欠伸をした彼らはにやりと笑って女子生徒に目を配った。その時彼女は丁度凍えた薪にやわらかく息を吹きかけていたところで、するとたちまち暖炉には風に煽られたように暖かい炎がゆらゆらと灯った。「へえ、なかなかやるねえ」二人は名前が出した炎に見惚れ、またしても呆気にとられていた。興味の矛先がいたずらから変わり、完全に彼女に定められた。

「あなたたちは、毎日がとっても楽しそうね。羨ましいわ」
「まあね。君は楽しくないのかい?」
「先生方に期待されて、試験で満点をとって…その繰り返し。まったくつまらない毎日よ」
「はははっ 言ってくれるぜ!」

彼女は時折、オレンジ色の光を長いまつげに乗せ、そしてゆっくり伏せた。ふと見せた儚げな笑みが瞳の奥に焼きついてゆく間、フレッドとジョージは頬杖をついてそれを眺めていた。この時から彼女の虜となっていたことを、二人は未だ知ることもない。

「私は不眠症でね、真夜中だって眠れないの」
「じゃあ、僕たちで君にぐっすり眠れる魔法をかけてあげようか」
「ありがとう。でも遠慮しておくわ、下手したら永遠の眠りにつきかねないし」
「違いない…」


それからというもの、彼女に対する二人の怒濤のアタックが始まった。ハニーデュークス店のお菓子の詰め合わせを度々プレゼントしたり、バンバン花火を爆発させる騒ぎに巻き込んだり。彼女のつまらない日常というのを木っ端微塵に吹っ飛ばすために、フレッドとジョージは奮闘に奮闘を重ねる毎日を送った。日に日に見せられてゆく、名前の年頃の女の子らしい表情を糧に。
もちろん、学校側としては大問題だ。悩み種に芽が生えない内にと、二人はマクゴナガル先生にその場でこっぴどく叱られることが何度もあった。しかし「ご両親宛てに手紙を送りましょうか」と脅されるのはもはや慣れっこで、マクゴナガル先生は手を焼く二人に頭痛がするのか、手で両目を覆ってため息をついていた。その隙に、フレッドとジョージは遠目から自分たちを心配そうに眺めていた名前にウインクを送った。持っていた教科書で口元を隠してくすくす笑う彼女の愛らしさに、彼らの心臓は一層高鳴った。
頭の先から爪先まで彼女に溺れているこの感覚。間違いない。確信した二人の耳は、もはや懸命に学生についての教えを説くマクゴナガル先生の声を受け付けやしなかった。

「ジョージ、お前に言っておきたいことがある」
「奇遇だな、僕もさフレッド」

まだ物足りなさそうな先生が職員室に戻っていったあと、二人は先に寮へ帰る名前のうしろ姿を見送っていた。冷たいすきま風が吹き通る廊下のど真ん中、熱にのぼせた二つの赤毛頭は視線も交えなかった。言わずと知れたお互いの気持ち。さすがは双子、二つで一つの頭なのだ。だからこそ彼らは、わざと挑戦的な表情を浮かべてとなりを見やった。負けるもんかと言わんばかりに、どこか楽しげな笑みもおまけに付けて。

「僕は名前が好きだ」

その言葉をスタートに始まった乱闘で、二人はまた騒ぎを聞きつけて飛んできたマクゴナガル先生にお世話になった。名前が風のうわさでこの騒動を知って、またおかしそうに笑っていたことを、罰則として羊皮紙二巻分の反省文を提出するように言いつけられた彼らはまだまだこれから先、知ることもない。

「ロン!フレッドとジョージがなにか騒ぎを起こしたみたい」
「気にするなよハリー。ただ喧嘩してるだけさ…仲良くね」

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