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まだ師走よりもディセンバーと呼んだほうがらしく聞こえる季節。カレンダーのバツ印はいよいよ24日にまで迫っていた。きらびやかなイルミネーションも手伝って、世のクリスマスムードが最高潮に達しているイブの夜。リビングに寝転がった私は賑わう街中の様子を四角い液晶越しにぼんやり眺めて、予約したケーキを受け取りに行っている親を待っている。大人とは言えないが、もうサンタがプレゼントを届けてくれるような歳でもない高校生の私にとって、クリスマスが来て嬉しいことと言えば普段よりちょっと豪華な晩ごはんが食べられる点くらいだ。
テレビの音以外静まり返っていた私の家だったが、そこへ突然ベルの音が飛び込んできてはっとする。ジングルのほうではなく玄関のベル。むしろインターホン。親だろうか。ピンポンピンポーン、ピンポンピンポンピンポーン。うるさいと感じるほどに鳴り止まないピンポンの応酬。映像が流れ続けるテレビはそのままに、はいはいと応えながら玄関に駆ける。鍵のつまみを捻ってドアを開けた。

「メリークリスマース!」

ドアを閉めた。上から下まで流れるような動きで鍵をかけて、念のためチェーンも渡らせておく。すぐさま玄関を離れた私は廊下を走って風呂場に入り、壁の小窓を開け放ったらあらん限りの声で叫んだ。

「おばちゃーん!梅田のおばちゃん助けてやー!今うちの玄関に不審者おるんやけど!」
「誰が不審者やねんしばくぞ」

私の全力も虚しく、お隣さんにSOSが届く前に不審者、もとい鳴子章吉が家の側面に回ってきていた。燃えるような赤い髪を凍てつくような夜風に晒し、小窓の外にはめられた格子にしがみついている。小窓を閉めようとすると力強くがしっと掴まれて動かない。

「そない真っ赤ななりして聖夜に誰か殺めてきてんか」
「返り血ちゃうわ!赤は仕様やろサンタの」

格子の隙間から突っ込みが決まる。そう言われて改めて鳴子の格好に視線を這わせてみるけれど、赤い頭にこれまた赤い帽子までご丁寧に被って、見れば見るほどサンタクロースである。何してんねんこいつ。
私と自分との間に温度差が生じていることに気付かない鳴子は動物園のサルよろしく両手で掴んだ格子を揺らす。

「サンタさんが遠路はるばるプレゼント届けに来てんねんぞーはよ入れろや」
「家の前に自転車停めてあったやんけ、どこが遠路やねん。そりとトナカイはどないしたんや」
「ピナレロ乗るんが今時のサンタの間で流行ってん」
「やかましいわ」

やかましいと返されても、鳴子は寒空の下愉快そうにカッカッカと笑う。霜焼けた鼻の頭と耳が赤く染まって、もう鳴子のほとんどを赤と、ときどきの白が占めていた。というか、その格好であのイケメンな自転車に乗ってきたのか。前傾姿勢を取りながらペダルを回すサンタを想像してみて、あまりの決まらなさに笑いが込み上げた。
二人してしばらく格子越しに馬鹿みたいに笑い合う。落ち着いた頃、鳴子は忘れとったわ、と思い出したようにサンタ服のポケットに手を突っ込んだ。待ってましたと言わんばかりに窓際に張り付いてプレゼントの登場を待つ私。ごそごそとまさぐって、色とりどりの包みをいっぱいに掴んだ鳴子サンタの手が格子の隙間にねじ込まれる。その拍子に、手の中から溢れたそれがいくつか風呂場の床のタイルに落ちた。

「アメちゃんかい!いつもと変わらんやんけ、期待して損したわ」
「何をがっかりしてんねん!ええか?安上がりで年中無休に美味い、それがアメちゃんや」
「安上がりてお前」
「アメちゃん舐めとるとワイが許さん」
「いやアメちゃんは舐めろや」
「おう」

また風呂場に笑い声が反響する。小窓からは底冷えするような外の空気が吹き込んでいるのに、不思議と寒いという感覚はない。

「ていうか、そこはワイがプレゼントや〜ってサプライズでもしてくれんと」
「いやーお前にくれてやるにはワイという男は高すぎるわ」
「抜かせ」


剴r中ですがメリークリスマスです

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