きみの心に触れさせて
「ねえ、痛い…」
「動かんで下さい。もっと痛なりますやん」
情事後特有の怠さと、襲ってくる睡魔と葛藤していた私は、耳に走った激痛に意識が急浮上した。人が痛みを訴えているにも関わらず、平気で人の耳に穴をあけているこの男は、一応私の彼氏だ。
彼が私の耳に穴をあけるに至った原因は、多分私にある。これはまた一つ私を縛りつける為の¨枷¨となるのだ。
殊の発端は遡ること数時間前、いつもの如く保健室にて休息をとっていた、つまりは授業をサボっていた私の元に彼が現れたことより始まる。
ベッド備え付けのカーテンが開いた事で窓から差し込んでいた光が一気に入り込んできてあまりの眩しさに腕で目を覆った。
ぱし───っ その腕を掴まれたとわかった瞬間、篭められた力に痛みを感じて一気に意識がハッキリとした。
寝覚は最悪だ。
「先輩、また浮気したやろ」
「……やったら、なん?」
またその話、とつきたい溜息を我慢して両腕をシーツに縫い付け私に跨がる男を睨み上げた。
抑揚のない声には殺意さえ感じる。
「……アンタの彼氏は誰やねん」
「今、私の首絞めてる人やないの?」
腕を締め付ける力がなくなったかと思えば、首にかかる圧力。苦しいとは思っても抵抗しないのは、彼が私を殺せる訳無いと分かっているから。
この痛みは、アンタの分かりやすい愛情表現やもんな。
それが分かってるから抵抗せんし。私の事で頭一杯なアンタをこんな近くで見られる。せやからやめられん。
光が好きやから、浮気すんねん。
「ねえ、光。私、アンタのこと大好きや」
「知ってますわ、そんなん」
せやからムカつくねん。と呟いた光の唇が私のそれを塞ぐ。首にかかっていた手はいつの間にか離れていた。
優しい口づけに物足りなさを感じ、離れていく光の唇を奪いにいく。首に回した腕でしがみつく私を抱き寄せて深く口づける光の唇に酔いしれる。
「──先輩、エロいっすわ」
「誰のせいや、思てんねん」
最近全然構ってくれへんかった。光不足で、どうしようもなくなったから他の男で満たそう思たんや。でもやっぱ、アンタやないとアカンわ。
───……
「血ィ出てしもた…」
「ん…っ」
ぺろり、と舐められた耳たぶ。ぴくりと反応する身体に、耳元でくすりと笑う光が小さく囁く。
「感度良すぎや、先輩」
──可愛え。 低い声が耳をくすぐる。耳にあいた穴に通された光のピアスが、きらりと輝き、耳に落とされた口づけに深い愛情を感じた。
「姫先輩は俺だけのもんやて事、忘れんといて下さい」
「──ん、」
ぎゅっと抱きしめる光の腕の中、彼の温もりに包まれてそっと瞼を閉じた。
彼と私の関係は、歪んだ愛情の上に成り立つ。
まるでそれは──、
狂い咲く恋慕
11.10.04 編集20.01.10
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