一歩を踏み出す勇気
「ねえ、祐太」
「んー」
「私、そろそろお兄さんに挨拶しに行こうかと思ってるんだけど」
「は?何で」
聖ルドルフ学園。男子寮、不二祐太、私の将来の旦那様、現在進行形で彼氏さまのお部屋にて彼のベッドを占領しながら最近ずっと考えていたことについて漸く結論を出した。
私の結論に対し、これでもかというくらいに眉間にシワを寄せる祐太は、読んでいた雑誌から顔を上げて私を睨みつけた。
コ、コワイです…祐太さん。
「何で姫が兄貴に挨拶しに行く必要があるんだよ」
そんな必要ねーだろ。 そう言って再びベッドに寄り掛かり雑誌に視線を落とす祐太の後ろ姿をじっと黙って見つめる。
私が祐太のお兄さんに会いたいのにはちゃんとした理由がある。そして、祐太が私とお兄さんの接触をどうしても避けたい理由も重々承知しているつもりだ。
祐太はただ、自分とお兄さんを比べて欲しくないだけなんだよね。自分を一人の人間として見てほしいんだよね。
でも、私は祐太の彼女としてお兄さんに会わなくちゃいけない。
「私が好きなのは祐太だよ」
「!──な、何だよ急に」
私の言葉に肩を揺らし、ゆっくり振り返った彼の顔は少し赤らんでいた。照れているのは一目瞭然。口が尖んがってる。
「私、祐太の彼女としてまだ未熟かな?」
「え、や。誰もそんなこと言ってねー!」
私は祐太がすき。不二は不二でも祐太の彼女だもん。祐太のお兄さんが好きなわけじゃない。不二祐太が好きなの。
だから、ちゃんと祐太の彼女としてお兄さんに会いたい。
だって祐太、私をお兄さんに会わせないのは、まだ心のどこかで私を信じ切れてないからでしょ?
──お兄さんに会ったら、私が貴方の傍を離れるとでも?
「私、祐太が好き。頑固で口悪くて寝起き最悪、それにすぐヤキモチやく祐太が好き」
「…………ああ、そう(嫌ってるの間違いじゃねーの?」
拗ねた様にそっぽを向く祐太の頬に触れるだけのキスを送る。私の気持ち少しでも伝わってほしい。
「──っ?!」
「──私に手を差し延べてくれた、不器用だけど優しくしてくれた祐太がすきっ」
パクパクと魚みたいに口を開閉して真っ赤になる祐太にベッドの上から抱き着いた。首に腕を回しぎゅっとしがみつけば、そろそろと遠慮がちに伸ばされた彼の腕が背中に回る。
「……なあ」
「なに…?」
──ぎゅっ
「──兄貴とさ、今度の日曜に会うんだけど…」
「!……うん」
祐太の言葉に頷いて先を促せば、最後に一度ぎゅっと力強く私を抱きしめた後に身体を離した祐太の唇が私のそれに触れた。
「…お前も、来いよ」
「──うん、いくっ!」
「!うわっ──ってー」
嬉しさのあまり勢い勝って祐太の胸にダイブした私を抱き留めてくれた彼は、反動で後ろにひっくり返った。
背中を打ち付けた痛みに顔を歪める祐太に小さく謝れば、ちゅっと優しく温かいキスが送られました。
「しょーがねぇからこれで許してやる」
「祐太大好きっ」
「わ、分かったから!抱き着くんじゃねー!」
ねえ、祐太。 こういう時くらい──
素直になって
11.10.06 編集20.01.10
▼ ◎
|