幼馴染の名前とは物心がつく前からずっと一緒だった。それこそ何をするにも。幼馴染というよりは妹に近いような感覚さえ持っていた。

 お互いの家を行き来するのは当たり前、双方の親も勝手に互いを互いの部屋に上げる事を許していたこともあって、帰ってきたら自分の部屋に幼馴染の姿があるなんてのは、日常茶飯事だった。

 それに対して何かを思ったことはない。

 特段不快に思った事もなければ鬱陶しいと感じたこともなかった。

 それが当たり前でずっとこれから先も変わらない事なのだろうと漠然とそう思っていた。

 それがいつの頃からだったか、徐々に身長差も開きはじめ、女の体つきになっていった名前が隣で寝ていた事にぎょっとして危機感を持てと説教するようになったり、自分以外の男と話している様子を見ているだけでむしゃくしゃするようになった。

 それが幼馴染に対して抱く感情ではない事を悟ったのは、中学に上がった頃くらいだったような気がする。

 喧嘩に明け暮れている自分の傍にいた彼女はそれなりに腕は立ったし、和光中の間でも俺たちに次ぐ強さを兼ね備えていた。男相手でも平気で力で勝ってしまう名前に近づく男なんて俺たちくらいのものだった。

『私、喧嘩やめる』
『どうした、急に』
『――普通の女の子になりたい』
『――…』

 結いあげていた髪を下ろし、泣きそうな顔をしてそう言った名前を引き留める事なんか俺にはできなかった。

『洋平もさ、あんま無茶しないでね。もう、私はアンタの背中守ってやれないから』
『――お前以外の奴に背中を預ける気はねぇよ』

 女とか男とか、そういう事の前に一人の人間としてダチとして認めていた。俺にとって背中を安心して任せられるというのは、信頼の証みてぇなもんだ。

 花道やアイツらとはまた違う形での絆が俺と名前の間にはあったとそれは今でも変わってねぇってどこかで信じていた。

 何があってそういう決断に至ったのか、何も相談してくれなかった事を責めるつもりはないが、頼ってもらえなかった事は未だに引きずっている部分でもある。

「あー…退屈だ。花道も最近全然女に振られねぇしよー…。さっさと次乗り換えりゃいいのになぁ」

 大楠の言葉に思考の深みにはまっていた意識が浮上した。空を仰ぎながらつまんねぇと呟く大楠に苦笑する。

「アイツは今、バスケットにはまりつつあるからな」

 花道の失恋記録が高校に入ってすぐにストップしちまった事が、大楠的には物足りないらしい。まあ、中学時代はいい具合に振られ続けてたからな。無理もねぇか。

 そういや、中学最初に告って振られた相手は、名前だったか――。

「そういやさ、洋平はどうなってんだよ」
「どうって何が」
「名前ちゃん」
「ああ……」

 花道はどうか知らないが、大楠たち三人は俺の名前へ対する情が幼馴染に対するそれとは違う事は周知の事実だった。

 別に知られているからどうってことはないが、こうして思い出したように話を振られるのは勘弁願いたい。進展などあるはずもねぇんだからな。

「知ってんだろ。アイツは、高校では優等生で通ってんだよ」
「いや、別に、喧嘩やめたから何かかわるわけじゃねぇじゃん。洋平も意外と奥手だよな」
「ははっ。奥手か。まあ、こればっかりは、簡単にはいかねぇよ」
「でもさ、名前ちゃんも洋平の事好きだと思うんだよな、俺」
「どっから来るんだその根拠は」
「いや、だってほら、喧嘩やめたのって洋平の為だろ?」
「それ、どういう事だ」
「あ……っ」

 いや、今のナシ。
 そう言って慌てたように口を噤む大楠を見て眉間に皺を寄せる。喧嘩をやめた理由を俺は最後まで聞けずじまいだった。

 女の子になりたいとかそんな事言ってたが、それがやめる根底にある理由だとは思ってなかった。

「おい、大楠。お前、何かアイツから聞いてんのか」
「……いや、聞いてるっつーか、聞こえたっていうか」
「あ?」
「怒んなって、俺も偶然晴子ちゃんとの会話盗み聞いちまっただけなんだよ」

 そう言って大楠は、ばつの悪そうな顔をしながら重たい口を開いた。







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