万事屋銀ちゃんにたどり着き、玄関を開ける。名前はとりあえずメガネを早くかけたくて、ずっと握っていた銀ちゃんの手を離し、先に中へと入った。ソファーに座っている赤いのは多分神楽だ。彼女のチャイナ服はいつも目立つからわかりやすい。


「あ、おかえりネ」

「ただいまー」

「酢昆布は?」

「ないよ」

「チッ」


舌打ちを無視して自分の荷物が置いてある一角からメガネを探し出す。

「壊されたアルか?」

「うん。ぶつかった時にぐしゃって」

「そいつからちゃんと慰謝料巻き上げて来たアル?」

「その前に土方さん来ちゃった」

「チッ、幕府の犬め」


メガネをかけるとようやく見えた室内。だらしなくソファーに座りながら酢昆布をしゃぶっている神楽はヒロインにあるまじき顔をしていた。


「おいおい、名前。一人で入ってくなよ。銀ちゃん寂しいだろ?」

「銀ちゃん、お帰り」

「はいはい、ただいまーっと。あれ、新八は?」

「知らないアル」


ちょうどタイミングよく玄関から新八が入って来た。


「お前どこ言ってたんだ?」

「今日はお通ちゃんのライブだって言ってたじゃないですか!」


彼の頭にはハートマークの中に『通』の文字が入ったハチマキが巻かれている。そして、『寺門通組親衛隊』という文字が入ったはっぴ。ライブ帰りでテンションが上がっているらしい新八には近づかないでおこうとそそくさと移動しようとした時だった。


突然銀ちゃんに腕を引っ張らた。彼に背中から抱きつかれる形になり、私の頭の上に銀ちゃんの顎が乗せられる。


「あー、お前らちゅうもーく」


ゆるい掛け声が頭上から発せられる。そして、神楽と新八がこちらを見た。


「ってことで俺たち付き合うことになりましたー」


ゆるく報告される。別に隠したいとかは思ってなかったけれど、こんなにすぐに報告されるとも思っていなくて、何の心の準備もできていなかった。ぽかんとしている私をよそに、新八は苦笑し、神楽は肩をすくめた。


「やっとですか」

「銀ちゃんやっと男みせたアル」

「あれ、そんな感じ?そんな感じなの?ここはもっと驚くとかないわけ?」

「側から見てたら丸わかりですよ。気づいてないの本人たちだけです」

「そうネ。姉御ともいつ付き合うか賭けてたアル。ワタシ今年中に賭けてぼろ儲けネ。銀ちゃんナイス!」

「人の恋愛で賭け事してんじゃねえよ。俺にも取り分よこせ!」

「だめネ!私の酢昆布アル!」

「いらねえええええっ」


酢昆布を賭けの対象にするのは神楽だけだと思う。


「おやおや、そんな態度を取ってもいいのかなあ???」


神楽がニヤリと悪どい笑みを浮かべた。そして、何かをコソコソと銀ちゃんに囁いた。それに衝撃を受けたらしい銀ちゃん。そして、しばらく何か二人でこそこそしていたかと思えば、銀ちゃんが、猛ダッシュで外へ駆け出していった。


「……神楽ちゃんに何言ったの?」

「大人には色々あるアル。メガネにはまだ早いネ」

「僕の方が年上だよね!?」


そして、玄関を吹き飛ばす勢いで帰って来た銀ちゃんが差し出したのはビニール袋にいっぱいに入った酢昆布だった。


「こ、これで、手を打ってくれ!」

「毎度あり」


その酢昆布は神楽の手に渡ったのだった。何らかの交渉が成立したらしい。


「よし、新八。今日泊めるアル」

「え、いいけど。急にどうしたの?」

「これだから、お前はまだガキなんだ。クソメガネ。メガネが本体ならメガネらしく気遣い見せるアル」

「ほんとにさっきから何なんだよ!?っていうかメガネは本体じゃないからね!?」

「いいから行くネ」


神楽は新八の耳を引っ張り出ていった。


二人っきりになると、途端に銀ちゃんがそわそわし出した。


「銀ちゃん?」

「あー、ふ、二人っきりになっちまったなー!」


わざとらしい言い方に首をかしげる。本当にどうしたんだろう。


「あ、そうだ」

「ななななっ、なんだ!?」

「アイス食べよ」

「自由人か!」

「銀ちゃんも食べる?」

「食う!食うけどさあ!もうちょっとこう、ねえ!?俺たち二人っきりだけど!付き合い始めの二人っきりってもっとこう、ドキドキうふふっ、キャッみたいな感じだろ!?」


銀ちゃんの分のアイスを投げ渡すと、華麗にキャッチしていた。私も冷凍庫から取り出したアイスを咥えソファーに座る。


「銀ちゃんうるさい。今からドラマの再放送やるから」

「彼氏よりドラマかよ」

「小栗旬之介のデビュー作だよ。見なきゃ」

「あんなやつどうでもいいだろうが」


そう言いながらも隣にどさりと座った銀ちゃん。彼もアイスを咥えながらもドラマを見ている。今より少し若い小栗旬之介に釘付けになっていると、隣からつんつんとほっぺたを突かれた。なのでベシリと手で払う。しばらくするとまたつんつんとほっぺたを突かれた。邪魔だなあと思って、銀ちゃんの方を向いた瞬間、目の前に銀ちゃんがいた。唇同士がくっついていて、銀ちゃんの真っ赤な目が至近距離で見える。


「お前、俺のことほっときすぎ。寂しくなるだろうが」

「……今、」

「何?もう一回してほしいって?いいぜ?」


そしてもう一度重なった唇はとても柔らかかった。


銀ちゃんにぎゅっと抱きしめられる。筋肉質な腕の中は少し狭くて、でもその狭さがとても心地よい。思わず擦り寄ってみると、銀ちゃんがびくりと体を震わせた。


「あー、もう、お前……。それ狙ってやってるのかよ」

「何が?」

「だから、もう銀さんの銀さんが元気になり始めてるっていうか、すでに戦闘体制ばっちりっていうか!」

「つまり?」

「抱かせてくださいお願いします!」


恥も外聞もかなぐり捨てたお願いに呆れ果てる。こういうのって普通、そういう雰囲気っていうかムードに持っていくもんじゃないの?


「………いいよ」

「そうだよな、ダメに決まって……いいの!?まじか!?え、ほんとに!?」

「やっぱり、」

「撤回は聞かないからあああ!そうと決まったら布団いくぞ!」

「え、お風呂は入りたい」

「今から汗かくんだから入らなくてよし!むしろ俺があとで隅から隅まで洗ってやるから!」


ガバリと抱えらあげられ、そのまま銀ちゃんの寝室へ直行。そして万年床に押し倒された。私の上にのる銀ちゃんに心臓が高鳴る。


いつになく真剣な顔をした銀ちゃんが名前の唇を塞いだ。そのキスはどんどん深くなり、ついていくだけで精一杯な私はただただ翻弄されていく。息が苦しくなって、かぶりを振って振りほどこうとすると、銀ちゃんの片手がそれを押さえ込んできた。


「んんっ……ぎ、ちゃっ!」


銀ちゃんの熱い舌が口腔内をかき回す。漏れる吐息が、熱っぽくて自分じゃないみたいだった。そんなキスがどれくらい続いたのか。キスから解放される頃にはすっかり息があがり、体に力が入らなくなっていた。しかも、気づかない間に着物ははだけ、あられもない姿になっている。


「気持ちよかった?」

「……、わか、んな……っ」

「なら、これから天国見せてやるよ。名前」


覆いかぶさってきた銀ちゃんは、今までにみたことがないほど熱い目をしていて、私は危うくキュン死に仕掛けた。







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