えー、えー、聞こえていますか?どこぞのアホのロン毛隊長殿。 只今、絶賛、絶対絶命中です。 絶対に、ベル隊長があんな不吉なことを言ったからだ。そうとしか思えない。帰ったら、あのティアラぶんどってあたしの頭にのせてやるんだから! えーっと、今の状況を説明します。まず、新品の隊服はすでに新品ではなく、ところどころ破れ、乾いた血でカペカペになっている。その血は返り血ももちろんなんだけど、自分の血もあるんだよね。これが。 見てみたら、肩が一番酷いらしくて右腕が上がらない。畜生。利き手じゃ無いだけましなのか?というか、どこがCランク任務だ!数が半端なく多い! 『う゛お゛おぉい!そっちはどうだあ?』 耳につけていた無線機から聞こえてくる声は通常くらいの声。でも、これは音量を最小限にしている。先輩の忠告に感謝だよ。でも、他の人の言葉はまったくといっていいほど聞きとれなかった。 「こっちビンゴ過ぎて泣けてきました」 『チッ、やっぱりそっちが本命かあ!』 「隊長、どんだけ勝負運ないんですか」 『うるせえぞお!とりあえず簡潔に状況の報告しやがれえ!』 「隊長の方がうるさいんですよ…。えっと、簡潔に状況を報告するとですね…、只今絶賛絶対絶命期間中です」 そう答えた瞬間、音量を最小限にしているはずの無線機から、鼓膜がやぶれんばかりの怒鳴り声が響き渡った。それにより、相手も少し狼狽してしまっている。これ、音量あげてたら絶対に耳が聞こえなくなってた。 『もっと詳しく説明しやがれえ!』 「簡潔とか、詳しくとか、どっちかにしろよ…。えっとですね、ざっと100人ほどに囲まれてて生き残りはあたし含めて3人。負傷者も3人っす。で、相手、ボックス持ってやがりましてかなりウザいです。あとキモい変態隊長似の人がいて、鳥肌が立ちました」 『う゛お゛おぉい!!最後の報告いらねえだろお!?』 「詳しく説明しろっていったのは隊長、です、よっ!」 逃げていたところを追いつかれて、ボックス兵器が飛んできた。それをあたしの武器である釵(さい)で突き刺す。釵は、日本で言う十手のような形をしていて、ボンゴレ霧の守護者の三又槍の先の部分だけみたいな武器だ。それを両手にもって戦うんだけど…、今突き刺したボックス兵器は虫だったみたいで、かなり気持ち悪い図ができあがってしまった。あたし、こんなの串焼きにしても食べないよ? 「とりあえず、あたし右肩あがらないんでなんとかしてください」 『チッ、すぐそっちに増援を送る。それまで耐えろ』 「えー、ラジャー…」 プツン、と切れた無線機を外し握りつぶす。だって耳に当ててたらよく外れちゃうんだもん。それがうざったくて注意力散漫になってたところを、右肩に攻撃を喰らわされたんだし。 「ぐわあっ!」 男のうめき声で、はっとすれば、仲間だったはずの物体が地面に堕ちていくところだった。その体には黄色の炎がまとわりついている。 「チッ、せっかく、明日はフランと友達記念に遊びに行こうと計画してたのにっ!」 残念ながら、ボックスは配布されていなくて手持ちにはないから釵に炎をまとわせて攻撃するしかできない。しかも、敵は運悪く雨属性の炎の持ち主がいないみたいで、雨のボックスは誰も持っていない。本当に最悪だっ! 帰ったら、スクアーロ隊長にご飯奢ってもらおう。プリンアラモードと、ティラミスと、カフェオレと、チーズケーキ。他には何を奢ってもらおうかな。 「っんの!!うざったい!あたしは、あっさり系男子の方が好きだあ!!」 ぐらりと傾く視界。やばい、と思った時には体に力が入らなくなっている。腕を見れば、どくどくと血が流れ出ていて、一目見ただけで出血多量だということがわかった。あちゃー。やっぱり、止血はしておくべきだったかな?布がないって言う理由でとくに何もしなかったんだけど…。 地面に倒れたあたしは、瞬時に敵に囲まれた。あと一人残っていた仲間は、そうそうに立ち去ってしまった。ああいうのがダメな男だよね。こういうときは、危険を顧みず助けると、こう、ドラマみたいなカッコいい恋が始まるんだよ。それに、危機的状態だと、救世主は普段どんなに気持ち悪い顔でも、たとえばあの変態隊長だってかっこよく見えるに違いない。 といっても、それも一時的なもので助かってしまえばカッコいいなんて少しでも思ってしまったついさっきまでの自分を呪い殺したくなるのは目に見えているんだけど。 あーあー、せっかくフランと友達になれて遊ぶこともせずにお陀仏って…。こんなことなら、今日の任務サボればよかったなあ。 痛む腕をあげて、最後の力を振り絞って、指輪に炎をともす。それを釵にまとわせた。一人の敵が、あたしの前に仁王立ちする。そいつを見上げれば、灰色の空が見えた。こういうときは空気を読んで青空にしてほしい。 敵が持っている刀を振り下ろす。それが確認できた瞬間、あたしは釵をこいつの喉元めがけて投げた。投げた釵は炎をまとったまま喉元につきささり、あたしの胸元すれすれでこいつの刀が止まった。 ニヤリ、と口角をあげる。最後まで油断大敵ってね。窮鼠猫を噛むっていうのはこういう状態だ。ひとつ勉強になったでしょ? そう考えた瞬間、周りの人間がいっきに吹っ飛んだ。 「はあ、なにやってんですかー。もしかして、死にましたか?」 「しんで、な…」 灰色の空を遮ってあたしの前に顔をだしたのは、フラン…、じゃなくてカエルだった。カエルって、なんでこんなにも愛くるしい顔をしてるんだろう。実際のカエルは、気持ち悪いのに。 発した声は、思ったよりも弱々しくて驚いた。 「っていっても、瀕死ですけどねー」 「うる、さ…」 起き上がろうとすれば、それを止められる。あたしの前には、敵に対峙して2人が立ち向かった。 「ハア、なんか、グロテスクなもんみられるは、ナイフで刺されるわ、しかも、一応部下の瀕死状態だわで、ミーも怒りますよー?」 「ししし、ぜってえそんなこと思ってねえだろ。お前」 「うるさいですねー。まあ、友達、らしいんで、助けようかなーなんて思うんで―、堕王子頑張ってくださーい」 「なんで俺なんだよ!」 「だって、ミーはボックスの解匣できないし。このカエルのせいで」 脱いでもいいなら、といったところ、ベル隊長がそれはダメだと言い張った。あのカエルにそこまでの思い入れがあるなんて…。もしかして、ベル隊長はカエルLOVE??イコールフランLOVE??おえっ、気持ち悪っ! 「んなもん普通にしろ!」 「ボックスの解匣には、ポーズは必要なんですよー。ってことで、任せます」 そうこういっているあいだにも、敵はおそってくるわけで、結局ベル隊長だけが解匣して辺り一面フォレスタの丸焼きになってしまった。 なみだを隠すように、 (俯いて少し口角をあげる) (薄れていく意識の中で、隊長だなんてズルすぎるだなんて思っていた) (おーい、名前ー…。起きないんなら置いていっていいですかー) (置いていっていいんじゃね?) (そうですねー) ((う゛お゛おぉい!そっちは終わったかあ!?)) (えー、こちらフラン。こっちは終わりましたー。負傷者置いてきまーす) (う゛お゛おい!置いてくんじゃねえ!持って帰ってきやがれえ!) (ですってー、ってことで先輩頑張ってくださいねー) (は?お前がやれよ。トモダチなんだろ?しし) (えー…。チッ、名前が起きたら絶対に恩返ししてもらいますー) |