「最近、絶対変だ!!」

「とうとう、愛想つかされたかー」

「そんなわけあるか!!」

「じゃあ、なにしたんだ?まさか、名前に無理強いしたんじゃないだろうな、尽八」

「してない!断じてそんなことはしてないぞ!」

「あ、そういえば、名前先輩。この間、校門前で待ち伏せしてた爽やかな男の人と一緒に下校してました」

「な、なに!?」


俺が頭を悩ませているというのに、全く取り合おうとしない部員たちに腹を立てていれば、相変わらず、堂々と爽やかに遅刻してきた真波がとんでもない爆弾を投下した。


「ま、真波!嘘は言ってないだろうな!」

「なんなら、確かめてみたらどうですか?今日もその人、待ち伏せしてましたよ」

「そーいや、名前、今日は急いで帰るとか言ってたなぁ」

「っ!フク!ちょっと抜ける!!」

「ああ、構わんが……」


フクの言葉を最後まで聞き終える前に飛び出した俺は、校門を目指してひた走った。周りの生徒がざわめいてたのなど気に留める余裕もなく、ただ彼女の姿を捜した。

俺と教室で別れたのはついさっきだ。少しぎこちない空気で、何かを迷った瞳で、俺を見つめる瞳は助けを求めていたに違いない!


そうだ!
名前が可愛いから、つけ狙う奴がでてきたんだな。俺にとられたことでこっそり見ているだけでは物足りなくなったのだろう。

誰のものにもならなかったからこそ、名前は純潔の花のように白く清く、気高い美しい乙女だった。

もう、俺のものだがな!
絶対に、名前は誰にもやらんよ。


「東堂君、名前ちゃんなら、下駄箱にいたわよー!!」

「!そうか、すまんね!恩に着るぞ!」

「何だか分からないけど、頑張ってー!」

「おう!」


進行方向にいた女子が勘付いて声をかけてくれたことで方向転換する。校舎に引き返して、クラスの下駄箱まで走れば、吃驚したような顔をしてこちらを見つめる大きな瞳と出逢った。

ま、間に合ったか!


「東堂君?練習――!?」


走ってきた勢いのまま、名前の腕を引き、そのまま苦しくない程度に力を込めて抱いた。突然のことにあわあわと慌てる名前は、周囲を気にするように視線を泳がせているのだろう。


真っ赤な顔をして、今は俺のことしか頭にない。

なあ、そうだろう?


「東堂君っ!み、皆見てるから!」

「では、見られていなければいいのだな」

「そ、そういう問題じゃ!」

「何を恥ずかしがる必要がある。それとも、俺とこうしている姿を見られたらまずい相手でもいるのか?」


びくり、と揺れた身体。
腕に力を込める。逃がすものか。やっと、やっと手に入れたんだぞ。三年間ずっと想ってた。

三年目のインターハイ。
まきちゃんと勝負をつけるまで、箱学が優勝するまでこの想いは封じ込めようと必死に抑え込んでいたそれも、この間崩れ落ちた。


それでも、前よりもっと部活に専念できるようになったのは、偏に名前が俺を見つめて、応援してくれるからだ。

そんな恵まれた環境にいるのに、俺は、それ以上をお前に求めてしまう。もっと、もっと、と欲は深くなるばかりで、留まりを知らないんだ。


「俺を捨てるのか?」

「!な、何言ってるの……?」

「では、校門前でお前を待ち伏せているのは誰だ!!一緒に下校した男というのは、お前とどういう関係がある!!」


がばっと身体を引き離し、名前の両肩を握って一息に言い切れば、周りで事の成り行きを見守っていた生徒もしん、と静まり返った。

こちらに集まる視線が名前と俺に突き刺さる。


「小学校の時の同級生だよ」

「それがなぜ、今頃になって名前の周りをちょろちょろしてるんだ」


そう言えば、ゆらり、と名前の瞳が揺れる。戸惑い、悲しみ、不安、いろんなものがないまぜになっているようなその瞳は、一度俺から逸らされて、再び目が合うと、いつもの力強い、名前の瞳に戻っていた。


「私の初恋の人なの。この間、同窓会で、告白された。両想いだったんだって、分かった」


どくり、と心臓が脈打つ。
心が揺らいだというつもりか。

俺ではなく、その男を選ぼうと、お前はそう言いたいのか。


「許さんよ、名前」

「え?」

「お前は俺のだ!」


ただのわがままだと分かっている。
気持ちもないのに自分の元に引き留めても、お互いに苦しいだけだというのも、いつも笑顔でいてほしい彼女の顔を曇らせてしまうのも。

それでも嫌だ。

俺は、名前と共にある喜びをしってしまったんだ。一度知った喜びを、そう簡単に手放すなど、出来るはずがないだろう。


「あ、東堂君!待って!」


気が付いたら駆け出していた。
校門めがけて一直線に。後ろからかかった名前の制止の声を振り切って、ざわめく生徒の間を縫うように走って、走って。


たどりついたその先で、息を整えながら対峙した目の前の男は、成程名前が惚れただけあって、まあいい男だ。

俺ほどではないがな!


「え、えっと?俺に何か用かな?」

「誰の彼女にちょっかいをかけている。この東堂甚八の彼女だぞ!!」

「!――君が……」


一陣の風が吹き抜ける。
驚いたように瞬いたのち、男は口角をあげて笑った。

後ろで誰かの止まる音と、荒い呼吸。
鼻孔をくすぐった香りは、甘い、俺の大好きなそれだった。


「名前ちゃんの大好物は?」

「はあ?」

「答えられないの?彼氏なのに?」

「っ。名前の好きな食べ物は、甘いもの全般だが、中でも、苺のお菓子が大好物だな」

「じゃあ、彼女の苦手なものは?」

「ホラー映画と、妙にリアルな怪談話だ」

「彼女が大好きなぬいぐるみは?」

「くまだ」

「彼女が好きな映画は?邦画と洋画どっちだかわかる?」

「洋画だ。基本、吹き替えではなく、字幕で見る方だ」

「彼女の得意科目と苦手科目は?」

「得意科目は、国語系全般。家庭科や、生物系も得意な方だな。苦手なのは、数学。歴史は得意だが、地理は苦手だ」

「そんな彼女が、今一番幸せだと思うのは?」

「!……」

「ねえ、考えれば分かるだろ。それだけ、名前ちゃんのこと知り尽くしてるなら、彼女の幸せがなんなのか」


名前の幸せ。
そんなもの、分かっている。

願わくば俺と同じであってほしいと、そう願っていただけで。


ぐっと拳に力が入る。
爪がくいこむのを感じたがそれでも力を緩めず握っていれば、柔らかい感触がそれを包み込んだ。


「私の幸せは、東堂君と一緒に過ごせる時間」

「!………」

「しおん君、私の彼にちょっかいかけないでください。傷つけたら、許さないから」


一歩、俺の前に小さな体が出る。
庇うように毅然と前に立つ彼女は、握った俺の手を離すことはしなかった。


「何だよ。幼馴染より、彼氏を取るのか、お前。この、浮気者」

「浮気じゃないもん!急に帰ってきて、私の幸せ壊そうとするなんて、それこそ幼馴染失格なんだから!」

「初恋相手に随分だな」

「私が今大好きなのは、東堂君だもん」


とくん、とくん。

ああ、俺は何を心配していたんだ。
こんなにも、名前の手は温かいじゃねぇか。


「!……東堂君?」

「尽八。俺は、尽八だ。名前」

「!……う、えっと……。じ、尽八君」

「クスッ。ああ、そうだ」


ぎゅっと、目の前にある愛おしい存在をかみしめるように抱きしめる。恥ずかしいだろう。真っ赤になった顔を隠してしまいたいだろう。

でも、それはさせてやらん。


後ろから抱く俺の腕を両手でつかんで、そっとふり仰いだ名前の顎をすくう。驚いた瞳が俺を映したそれに、フッと笑みをこぼして、そのまま柔らかく甘い果実にかぶりついた。


「んっ」


重なった唇は甘く、いつまでも触れ合っていたくなる中毒性を持っていたが、その時は目を回しそうになっている名前に免じてそっと身を引いた。

俺の腕の中で顔を覆って恥ずかしがっている名前の姿を隠すように、頭を抱えて胸に押し当てる。

髪に口づけてから、スッと鋭い視線を目の前の男に飛ばした。


じりっと後退した男の顔は酷く醜かった。折角の美形が台無しだな。

だが、それほどまでに、名前が愛おしかったのだろう。近すぎて手が出せなかった間に奪われたら、言い表せないくらい悔しいだろうな。


だが、これは俺のだ。
誰にも譲りはしない。


背を向けて去っていく男を見送って、腕の中にいる名前の名を呼べば、ぴくりと反応した彼女は、両手を外して、そっと俺を見上げた。


「もう、用はなくなったな。俺の練習でも見学していけ」

「こ、こんな顔で、いけないよ…っ」

「大丈夫だ。……俺のことで頭いっぱいにして可愛い顔をしているからな」

「ば、ばかっ!」


バカで結構だ。
名前のことに関しては、どれだけだって罵られても構わない。それほどまでに俺は、名前にべた惚れなのだと、彼女はちゃんとわかっているだろうか。





―同窓会で初恋の人と再会、
  実は両想いだったと発覚―

そういえば、尽八君
なんだー?
どうしてしおん君から聞かれた私の事全部答えられたの?
!ん、んー。それはだな!愛の力だ!
そっか!私にもね、教えてね、尽八君の事、たっくさん!
ああ。

尽八のあれはストーカー並みだな
どうやって調べたんです?
常人離れの観察眼と、女子ファンからうまいこと聞きださせた情報の賜物だな
それって、一歩間違えたら、ストーカーで突き出されるんじゃ……
名前もおめでてぇ頭してっからな、どーせ一生気づかねぇぞ、あれ
二人が幸せなら問題ないと思いますが、何でそんなに機嫌悪いんですか、荒北先輩。
はぁあ!?悪くねぇよ!目の前でいちゃつかれたくらいで今更機嫌なんて悪くなんねぇけどなぁ!?
(((それで機嫌悪いんだ(な)


Fin 27.10.08








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