「お前、居酒屋でバイトしてんだろ」

「さあ?」

「別に教師にちくったりしねぇよ。しねぇけどな、この点数は何だよ」

「てへっ」

「点数に影響でんなら、バイトはやめろ」

「バイト関係ないもん」

「じゃあなんだ。俺のことなめてんのか、あ?」


居酒屋でのバイトについては取り敢えず黙っていてくれているらしい松岡先生は、青筋立てて私の机にテストの答案用紙を叩きつけている。

放課後、日が暮れていく中、教室には先生と私の二人きり。先生のファンが見たら嘆くこと間違いなしのシチュエーションだ。


「先生、補習授業して」

「はぁ?」

「私、英語、駄目なの。英語だけ」

「……お前、物覚え良いし、授業だって、まじめに聞いて、理解してんだろ。わかんねぇから、こんな点数とってるわけじゃねぇだろが」


あら、意外と生徒のこと見てるのね。
深いため息とともに先生が口にしたことは間違っちゃいない。でも、テストで赤点取ったのは事実で、それはおそらく、先生の責任問題にもなりかねないだろう。

教育実習生の授業が悪いから、いつも優秀な生徒がこんな点数を取る。

先生の評価はガタ落ちだろう。


「先生、評価下がっちゃうから、ほっとけないよね」

「お前、教師を脅すか」

「えへっ」


脅すなんてとんでもない。
暫く先生監視してないと、いつ私のバイトのことがもれちゃうか分かんないじゃないか。それに私、先生のこと興味あるし。


「俺は厳しいからな。取り敢えず、俺が教育実習の間は放課後はないと思え」

「それはちょっと……」


バイトあるんですけど。


「バイトに行きたきゃ、満点とるんだな」

「先生って性格悪いでしょ」


そんな顔して笑うなんて卑怯だ。
不覚にもときめいた私の純情を返せ。


これから先、放課後は全て補習という名の地獄の猛特訓へと姿を変え、学園の女生徒から羨望の眼差しと嫉妬の目で見られながら日々を悶々と過ごすことになった。

勿論、バイトもおわずけ。


「先生、私の生活費かせいでくれるの?」

「飯くらいなら、おごってやるから、ピーピー言う前に問題解け」

「だって、この長文つまんないもん」

「理解できてんなら、問いに答えろ」

「えー、日本語の意味わかりませーん」

「お前なぁ」


青筋立てながらも私に付き合って放課後残ってくれる先生。先生を一人占めできるこの時間が、何だかとっても幸せなのです。

観察してみると先生ってまつ毛長いし、意外と字綺麗だし、英語の発音なんて、ほんと本場そのもので、とてもじゃないけど、日本人って感じがしない。

流暢な英語をさらりと言ってのける先生はとってもカッコいい。


「先生ってさ、彼女いるの?」

「はあ?いねぇよ。んなもんいたら、お前とここで英文睨めっこしてねぇだろ」

「確かに、先生の彼女って大変そうだね」

「どういう意味だてめぇ」


からかうと面白くって。
でも実はすっごく生徒思いで優しい人。

きっと、困ってる人とか、くじけている人を放っておけないタイプの人だと思う。


「先生」

「んー」

「満点とったら、私のお願い聞いて」

「バイトのことだろ」

「それもあるけど、もう一個」

「お前、欲深いな」

「まあ、まあ。可愛い教え子のお願いくらい聞いてよ」

「そういうこと言うやつを可愛いとは言わねぇんだよ」


満点とったらな。
続いた先生の言葉に心の中でガッツポーズ。




(今だけは問題児で)
先生、ご飯
……ラーメンな
えーっ
文句言うな。







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