▼ 未門陽太B(2/2)
「もし、俺が死んだらって最近よく思うんだ。弟と妹はまだ小さいから、心配でさ。先に生まれた義務っていうか、責任っていうか、俺はそれを果たせそうにない。カガリなら俺の弟と妹が、牙王と花が困った時に助けられるんじゃないかって」
だから、と一旦言葉を切る。
「カガリ。もし俺が牙王と花を助けてやってくれって言ったら、どうする?」
無責任だと怒られることは覚悟している。でも俺と同じように弟と妹がいるカガリなら分かってくれる。理解してくれると期待した。
けれど、現実は違った。
カガリの自己評価が低いことを、自分自身に厳しいことを、俺は考慮していなかった。すっかり失念していた。
「きみの弟と妹に、私は必要ない」
「……え」
はっきりとした言葉に、困惑せざるを得なかった。椅子から立ったカガリを見上げる。
カガリは何事もなかったかのように小さく笑い、俺の胸を軽く小突いた。
「『太陽番長』があるなら大丈夫だ。自信を持ちなよ、陽太」
そう言ってカガリは踵を返し、病室の扉の前へと向かう。
咄嗟に手を伸ばすが、届かない。
少し前までとは違い、今の俺はベッドから出ることすら出来ない。まるでカガリが遠い場所にいるようだ。
「それじゃあ、私は帰るとするよ。……さよなら、陽太」
カガリは俺に小さな背中を向けたまま、病室をあとにした。それが最後に見たカガリの姿だった。
後日俺の病室を訪れたゲンマ曰く通院する病院が変わったらしい。だが、結局それも噂の域を脱しなかった。なにせカガリは誰にもなにも言わずに去ったのだから。
看護師たちに訊いても、守秘義務で話せないと一点張りだった。
あの時のカガリはいつもの『またね』ではなく『さよなら』と言った。なら、あれはカガリなりの別れの挨拶だったのだろうか。
あとに残されたのは彼女が真実を握り潰したまま、この病院を去ったという事実だけだった。
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