皆の先輩シリーズ | ナノ


▼ 黒岳テツヤB(2/3)

「あー……うん。あれね。てっきりテツヤは忘れたと思っていたから、なかったことになったと思ったのだけれど」
「うっ」
「まあ、お姉ちゃんが一方的に取り付けた約束だし、別に守らなくても」
「……それじゃあ、駄目なんだYO」
「テツヤ?」

思わず肩を落とすと、それを見た姉ちゃんは心配そうに俺を見つめた。
離れて暮らしているにも関わらず、結局俺は姉ちゃんに甘えたままだ。
だから、今ある約束と向き合い、果たすべきではないのだろうか。
てる美との約束も。
姉ちゃんとの約束も。
俺はなに一つ、果たせていないのだから。
背中にいる妹を抱え直し、姉ちゃんが歩み寄ってくる。そうしていつものように俺の頭を撫でようと、空いている右手を伸ばした。
俺はぐっと拳を握りしめ、改めて姉ちゃんと向き合った。

「俺、強くなるよ。姉ちゃんに負けないくらい、強くなる」

すると姉ちゃんは伸ばしかけていた手を止め、大きく目を見開いた。
しばらくの間、玄関は静かになり、扉を隔てたリビングの方からバラエティー番組の音声が聴こえてきた。

「……テツヤは、たくましくなったみたい」

ようやく口を開いた姉ちゃんの言葉は、まるで独り言のようだった。けれどそれは紛れもなく俺に向けられた言葉で、現に姉ちゃんはしっかりと俺の目を見ていた。
頭を撫でようとしていた手も、おろされていた。
寂しかったけど、撫でられなかったことで姉ちゃんに近付けた気もする。
だから少しだけ、誇らしかった。

「そう、かな。まあ、姉ちゃんがいない間に俺も色々あったからかもしれないYO」

そう言って、俺が笑ってみせる。
すると姉ちゃんもまた笑った。

「成長したっていうか、大きくなったっていうか、そんな感じ?」
「でも、まだ姉ちゃんの方が身長あるYO! いつか追い抜いてみせるけど!」
「いや、そういうことじゃないのだけれど……うん、まあ、いいや。じゃあ、素直に期待しとくよ」

姉ちゃんは再び笑ったあと、リビングに戻るために踵を返した。その途中に姉ちゃんの表情が一瞬だけ曇ったような気がした。
いつか見たことのある横顔だと、そう思った。
いつ見たのだろう。
随分昔に見て、今まで一切見せなかった……ああ、そうだ。思い出した。

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