皆の先輩シリーズ | ナノ


▼ 荒神ロウガ@(2/2)

Winner クロダケ カガリ !
機械的な声が響き渡り、コロッセオを模したホログラムが崩れ落ちる。
俺は呆然と立ち尽くしながらフィールドを挟んで向かい側に立っている女、黒岳カガリを見た。
黒岳カガリは勝ったにも関わらず嬉しそうな素振りを見せずに、僅かに眉を潜めながら傍らにいるアスタロトを見上げた。

「少しでも冷静さを欠いてくれたらって思って一応挑発し返したんだけど、彼、本当に冷静さ欠いてた? すごく強かったんだけど」
「まあ、冷静さを欠いたというより、あれはやつが熱くなり過ぎて、君がそれを冷静に対処したというだけの話だろう。流石私のカガリ。惚れ惚れする」
「……それはどうも」

肩を竦めたあと、黒岳カガリは踵を返してフィールドを後にする。
俺の足は自然と奴を追っていた。
黒岳カガリはデュエルフィールドを貸したカードショップの店長と言葉を交わし、会釈した。恐らくお礼を述べたのだろう。
その後、睨むように見据えている俺に気付いたのか、黒岳カガリが歩み寄ってきた。

「や、お疲れ様」
「貴様、どういうことだ」
「いや、どういうこと、と言われてもね。アスタロトに同世代のファイターではなく後輩の、しかも強いファイターと戦ってみたい、と言われてね。それで最近強いと噂に聞いた君を探していたというわけだよ。バディであるアスタロトと一緒にカードショップ辺りに居れば声を掛けてもらえるかな、なんて」

つまり、俺はアスタロトの作戦にまんまと乗せられた、ということらしい。
思わず顔を歪めそうになったが、乗せられたという点においてはこいつも俺と同じはずだ。

「……ふんっ、悪魔ごときの甘言に耳を傾けたということか」
「あー……まあ、確かにそうなるね」

黒岳カガリは苦い表情を浮かべ、視線をさまよわせる。
それ見たことか、とほくそ笑むが、一瞬生まれた優越感はすぐさま砕かれることとなった。

「ははっ、カガリに負けたのにも関わらず、随分と威勢の良い子どもだ」
「っ、何だと!!」

黒岳カガリの後ろに控えていたアスタロトの言葉に、思わず怒鳴りつける。
アスタロトは至って楽しげに笑うばかりで言葉を返すことはなかった。
明らかな挑発だということは、分かっていた。
しかし、ファイトに負けた事実、そこから派生した悔しさから受け流すことが出来ない。
肩に乗っているアーマナイト・イーグルが心配そうにこちらを見た。それすらも今の俺には余計に苛立たせる要素にしかならず、怒りに任せて再び口を開こうとした時だ。

「アスタロト」

黒岳カガリの一声で、水を打ったようにその場が静まり返る。
ぞっとするほど低い声と冷たい視線。
自身のバディから向けられたそれらに、アスタロトは苦笑いを浮かべ、肩を竦めた。

「荒神くん。騙すような発言をしたこと、それに私のバディの非礼を許してほしい。本当に申し訳ない」

黒岳カガリは迷うことなく頭を下げる。どうやらこいつにはプライドという概念を持ち合わせていないらしい。
よくもまあ年下の人間に頭を下げられたものだ。
だが、悪い気はしない。

「ふん……貴様が考えてるほど俺は気にしてはいないが、一つだけ言っておくぞ。……黒岳カガリ、次に会った時は覚悟しておけ」

投げ掛けられた言葉が予想外だったのか、黒岳カガリは顔を上げ、目を瞬かせた。そんな間抜け面を晒している黒岳カガリに踵を返し、カードショップの出口を目指す。

「……うん、肝に命じておく」

扉を通る際に聴こえてきた黒岳カガリの声音は緊張感を含んでいたものの、どこか楽しげだったような気がした。

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