皆の先輩シリーズ | ナノ


▼ 大公爵アスタロトA(4/5)

「――弟に、私を倒してほしいからだよ」
「……おと、うと?」
「そう。可愛い可愛い、私の弟。今はまだ転ぶと私に泣きつくような子だけれど、弟は絶対強くなる。だから魔王アスモダイと出会って、バディファイトを始めるその時まで、私は弟を待ってなきゃいけない」
「……一体、お前は」

何だ、と。
アスタロトの口にしようとした言葉は掠れ、白い息と共に空気へ溶け出す。
だが少女は、それすら見通していると言うように、微笑みを浮かべていた。

「言ったでしょ。いずれ何でも知ってる皆の先輩になるって」
「……」
「ま、私とアスタロトがバディになればきっと良い悪役になると言ったキマリスには悪いけれど、バディを組まなかったことは私の方から伝えておくよ」

じゃあね、と言って少女はアスタロトの横を通ろうとした。
その手をアスタロトが掴んで引き止める。寒さに晒されているにも関わらず、少女の手はやけに温かかった。

「……キマリスが、そう言ったのか」
「そうだけれど、どうかした?」

目を丸くする少女を見て、アスタロトは乾いた笑いを漏らさずにはいられなかった。
キマリスは、少女と仲良くなったが自身の手にあまる、と語っていた。ならば、先ほど感じた寒気は気のせいなどではない。

「俺と、バディにならないか」
「うん? どういう風の吹き回し?」
「お前の隣で、お前が見ているという先の世界を見てみたいと思っただけだ」

アスタロトは片膝を曲げて屈んだあと、改めて少女を見上げる。
――悪魔ならばいざ知らず、ただの人間が本当に未来を見透かせるというのなら、あの魔王アスモダイが認める予定の人間が本当に少女の弟なら、これはきっと怖いもの見たさだ。
一方、アスタロトの言葉を聞いた少女は一度沈黙したあと、ぷ、と小さく笑いを吹き出した。
肩を震わせながら笑い始めた少女を、アスタロトは呆然と見やるしか出来ない。そもそも、何故笑われたかすら分かっていなかった。
ようやく笑いが収まった頃、少女は笑い過ぎによってにじんだ涙をぬぐった。

prev / next

[ back to top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -