皆の先輩シリーズ | ナノ


▼ 大公爵アスタロトA(3/5)

「バディになるだけで大袈裟な」
「さり気なく心の中を読むな」
「ああ、ごめんね。つい癖で」

いや、どんな癖だ。
アスタロトが顔をしかめながら心の中でぼやくが、少女はさほど気にする様子もなく言葉を続けた。

「まあ、まだバディになるとは決まったわけではないし、君が嫌ならバディにはならないよ」
「……お前は、バディが欲しくないのか?」
「うーん、そこまで欲しいかと問われると別にって感じかな」

少女はぐいと缶コーヒーを飲み干し、空になった缶を公園の隅の方に設置されているゴミ箱へ投げる。乾いた音を立てて缶はゴミとしての役割に収まった。
一方のアスタロトは再び眉を潜めざるを得なかった。
バディファイターにとって、異世界の住人とバディを組んで戦うことは特別な意味を持っている。バディスキルを与えられることは実力がある証だと。
だが、それはあくまで地球を中心においた考え方だ。異世界の住人にとって本来の力を発揮出来なくなってしまう地球は大変に住みにくい。
確かにバディスキルを与え、バディファイターを介する形で力を発現することは出来るが、その力はほんの一部に過ぎない。
同郷の、悪魔に知識を与えられただけの魔術師すら良く思っていないアスタロトにとって、地球に住む非力な人間がバディスキルで力を手に入れることなど――忌むべきことだと思っていた。
だから、バディになることは絶対にない。
その決意のもとに地球を訪れたのだが、肝心のバディ候補がこの調子とはどういうことなのだろう。

「……ならば何故、お前はバディファイトをやっている」

ごく当たり前の疑問を投げ掛けたつもりだった。
「楽しいから」というありきたりな答えを期待したつもりだった。
しかし、少女は目を丸くさせた直後、初めて笑みを浮かべた。
正確には、先ほどまで浮かべていた貼り付けたような笑みがなくなっていた。
少女が浮かべたものは、酷く綺麗な笑みだった。
ぞわり、と。
少女の笑みを見た途端、アスタロトの身体に外気によるものではない寒気が走る。

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