▼ 大公爵アスタロトA(2/5)
「初めまして、大公爵アスタロト」
「……お前、何者だ」
微かな動揺から疑問を口にするまでに一拍ほど置いてしまう。
相手は人間、しかも子どもだ。自分は、一体何を恐れているのだろう。
アスタロトは自身でも気付かぬ間に眉を潜めるが、一方の少女はアスタロトと相対するように落ち着いていた。
余裕を持って、口の端をつり上げていた。
「何者かと問われると、今はただの小学生、いずれは何でも知ってる皆の先輩。まあ、そんな感じだね」
「皆の先輩?」
「あ、これ時系列的にネタバレだったね。今の発言はなしだ」
「……よく分からないことを言う」
「うん、よく言われる」
少女が浮かべた笑みをそのままに肩を竦めると、アスタロトは僅かに顔をしかめた。
もとい、少女を睨みつけた。
「何故、俺がアスタロトだと分かった」
「人間にしては顔の造形が整い過ぎているし、高貴な人って雰囲気で分かるでしょ」
「褒められても俺は騙されん」
「思ったことを言ったまでだよ。好意は素直に受け取ってほしいね」
やんわりと強気に答えた少女にアスタロトは思わずたじろぐ。
褒められた、のだろうか。しかし、これでは少女を睨んでしまった自分が情けない気がする。
少しの沈黙のあと、アスタロトが喋りたがらないと察したのか、少女の方から口火を切った。
「ところで、君は何で地球に? バディを探しに来たとか?」
「いや……俺はキマリスに頼まれてここでいつもコーヒーを飲んでいるという女に会いに来た」
「ああ、それ私」
「は」
「キマリスにいつも通りコーヒー飲みながらここで待ってるように言われたんだけれど」
ほら、と言って手に持っていた缶コーヒーを掲げる少女に、アスタロトは沈黙せざるを得なかった。
キマリスが悪役のあとにちゃんを付けていたことから察するに女だという予想はついていた。
しかし、それが女児だったとは。ロリコンになれとでも言うのだろうか。
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