▼ 海道大、カメ三兄弟(6/6)
「えーと、私は黒岳カガリという。その……姉貴じゃなくて姉御、とかなら良いんだけど……」
「ならば、カガリの姉御! よろしく頼む!」
「うん。よろしく、海道くん」
カメ三郎の妨害のせいでカガリと海道大が改めて握手を交わし、自己紹介を済ませてしまった。
おかげで私の握った拳も行き場をなくし、渋々下げざるを得ない。それを見たカメ三郎も足から離れ、ほっと胸を撫で下ろしていた。
「それじゃあ、縁があったらまた会おう、海道くん」
「うむ! またのう、カガリの姉御!」
海道大とカメ三郎に手を振られながらカガリと私は海を後にした。
その帰り道のことである。
ふと隣を歩くカガリの方を見やると、表情が少し曇っていることに気付いた。
やはり海道大のことを殴っておくべきだったか、と思いながら私は疑問を投げ掛ける。
「カガリ。あの少年がどうかしたか?」
「いや、海道くんがどうとかじゃなくて、その……海道くんに姉貴って呼ばれた時にテツヤ達のことを思い出してさ」
「ああ……そういうことか」
ヤミゲドウの一件以降、カガリは超東驚へ行くどころか、実家にすら帰省していない。両親には定期連絡をしているが、それもメールの形でとどめ、意図的に会うことを避けているように見受けられた。
恐らく、今まで会うことが多かった家族への依存度を減らそうと努力しているのだろう。
高校二年生から高校三年生になれば、必然的に進路関連で忙しくなる。その前準備のようなものではないか……と、まあ、私なりに考えたが、実際のところカガリが心に抱えているものの核心には至っていない。
ただ、今回の外出は気を紛らわせようとしたものだということは確かだ。
「……カガリ」
「何だい、アスタロト」
「今日は私がアイスを奢ろう」
私の提案にカガリは目を瞬かせたあと、小さく微笑んだ。そして空いている手で麦わら帽子を目深に被り直したカガリはぽつりと呟いた。
「……ありがと、アスタロト」
その声はどこか気恥ずかしそうなものだった。
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