▼ 炎魔バン(3/4)
「そりゃあ、あれだな」
一度言葉を切り、余計な考えを振り払う。
そして俺はにやりと笑った。
「嬢ちゃんが俺を漢の中の漢だと見抜いて見殺すには惜しいと思ったからだ」
「ぶはっ」
思い切り噴き出されてしまった。
どうやら笑いのツボは浅い方らしい。
ひとしきり笑った嬢ちゃんは目尻の涙をぬぐったあと、小さく肩をすくめた。
「大した自信だよ。まあ、その言い切りっぷりは確かに漢の中の漢だ。……ただ、私はこれでも悪い人間だよ」
「嬢ちゃんがか?」
「ああ、とびっきりの悪者さ」
嬢ちゃんは再びコーヒーを飲み、静かに目を閉じる。
その姿はまるで自分に言い聞かせているように見えた。
コーヒーを飲むように、自分の考えを飲み下そうとしている。
「……少し、違ェな」
「うん?」
俺の言葉に嬢ちゃんは閉じていた目を開け、こちらを見つめる。
「俺を漢の中の漢だって見抜いて、その上俺達に弁当をくれた嬢ちゃんが、例え悪い人間だったとしても、良い女には違いねェよ」
なにせ俺達の見た目はあからさまに不良のそれで、普通なら見捨てられてもおかしくない状況だった。
けれど嬢ちゃんは当たり前のように手を差し伸べた。正確にはデコピンを食らわせられたが、それでも助けられたことに変わりはない。
俺の言葉を聞いた嬢ちゃんは大きく目を見開いたあと、苦々しく笑った。
どこか泣きそうな笑みにも見えたが、それは気のせいだろうか。
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