▼ 炎魔バン(2/4)
「……このご時世に行き倒れなんて初めて見たよ」
呆れ顔の嬢ちゃんは押し付けるようにして俺にコンビニの袋を渡し、立ち上がった。その際にスカートについた埃を払い、コンビニ前に設置されたベンチに腰を下ろす。
隣に置いてあった紙コップ入りのコーヒーを一口飲み(どうやら俺にデコピンするためだけに置いていたらしい)、コンビニの脇にある自転車を停めるスペースを親指でさした。
「そこの怒羅魂頭(ドラゴンヘッド)四人は先に食べているよ」
「姐さん、アザース!」
「姐さんと呼ばないでくれるかな。私には黒岳カガリという名前が」
「カガリの姐さん、ありがとだッキー!」
「……まあ、それで良いか」
族の頭(かしら)になった覚えはないのだけれどね、とぼやきながらも黒岳カガリと名乗った嬢ちゃんは薄く笑った。
悪羅悪羅竜王(おらおらりゅうおう)ビリオンナックルに姐さんと呼ばれても、ドラゴンキッドリッキーに言葉を遮られても怒らないのだから、そこそこ心の広い嬢ちゃんだ。
俺は一言お礼を述べたあと、受け取った弁当を食べながらそんなことを思う。
空腹だったせいか、弁当はものの数分で平らげた。ペットボトル入りの茶を飲んだあと、嬢ちゃんの様子を伺いながら口を開いた。
「……よく」
「うん?」
「よく、こんなことをしてんのか」
「まさか。単なる気まぐれだよ」
「気まぐれ」
「おや、何か不満でも?」
「アンタは単なる気まぐれで人を助けるような奴じゃねェだろ」
「……おやおや。ならば何故私がきみを助けたか、分かるかい?」
面白いものを見るような視線を向け、嬢ちゃんが微笑む。それはなにかを見定めているようだった。
生憎それがなにかまでは分からない。
ただその時の俺は、その笑みを年不相応だと思った。
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