▼ 未門牙王(4/4)
「ふうん……なるほどね。いやはや、私も思慮に欠けていたよ。そこまで想定していなかった。確かにそうなると今後のすべてが破綻しかねないね。ただ、まあ」
それはそれで見てみたい気がするね。
そう言ったカガリさんの声はぞっとするほど冷たいものだった。
思わずオレが肩を震わせ、ドラムが身構えた時だ。
「さて」
不意にカガリさんが両手を叩き、乾いた音が響いた。
その瞬間、険悪になりかけた雰囲気が嘘のように霧散する。
「消極的な私のバディが珍しく進言したのだから、ここは素直に引くとしよう。邪魔をしてすまなかったね」
誰に向けたかも分からない謝罪を述べ、カガリさんはドラムの横を、さらにはタスク先輩の横を通る。
本当に何事もなかったかのように、カガリさんはこの場を立ち去ろうとしていた。
オレの前に立ったままのアスタロトを見上げた。アスタロトは気まずそうに視線を落としている。
「なんでアスタロトとカガリさんが陽太兄ちゃんのことを……?」
「……それは」
アスタロトは言いかけて、口をつぐんだ。
けれど、オレが抱いた疑問は無理矢理に解決されてしまった。
他でもない、渦中の人であるカガリさんによって。
「きみのお兄さんと私が友達だったからだよ、未門弟くん」
振り返ると、タスク先輩を通り過ぎて数メートル先の場所。そこでカガリさんは立ち止まり、まっすぐオレを見据えていた。
「きみが轟鬼ゲンマを忘れていたように、黒岳カガリを忘れていた。それだけの話さ」
相変わらず笑っているカガリさんの真意は、うかがい知れない。
けれど視線を逸らすことを許さないと言われたような気がして、オレはただカガリさんを見つめることしか出来なかった。
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