皆の先輩シリーズ | ナノ


▼ 未門牙王(2/4)

「すべてなかったことにすれば良い」

あまりに現実味のなく、そしてあまりに突拍子もない言葉だった。
けれど、女の人は出来ることを前提に話を進める。

「ヤミゲドウのことも、角王のことも、全部なかったことにすれば良い。大昔に暴れたというヤミゲドウをなかったことにしてしまえば、今まで起きた出来事自体なくなるのだから。そうすればそもそも角王が誕生する必要も、角王達が封印のために地球にとどまる必要もなくなる」

女の人は一度ドラムを見たあと、改めてオレを見た。
どう返答すべきなのだろう。
どう返答すれば正しいのだろう。
女の人が有り得ない話をしていることは事実だ。
けれど、その女の人が言ったというだけでなぜか有り得そうな話をしているような感覚に陥る。
出来る気がする、と言い換えても良い。
この人なら、当たり前のようにすべてなかったことに出来る気がした。
それなら、オレは。
そう言いかけた時、不意に隣に居たドラムが前に出た。見上げるとドラムは警戒するように女の人を睨みつけていた。

「そんなこと出来るわけねえだろ! 大体、お前は誰なんだよ!」
「なに、通りすがりの相棒学園出身の先輩さ。もっとも今は外部の高校に通っているがね」

吼えるドラムに臆することなく対峙した女の人は、何事もなかったように問い掛けた。

「未門牙王くん。私がきみを助けよう。きみが望みさえすれば私はなんでも出来る。きみが望むのなら――私はなんでも叶えてあげよう」

右手を差し出され、思わず手を伸ばしかける。
そんなオレを見て、ドラムが目を見開いていた。
だって、そうだろう。
少なくとも今のオレでは、角王であるドラムのバディに相応しくない。
そんな状況を打開してくれると、助けてくれると言うその女の人の手を、取らずにはいられない。
けれど、それは叶わなかった。

「カガリさん!」

背中からタスク先輩の声が飛び、はっとしたオレは咄嗟に手を引っ込める。
一方、タスク先輩にカガリさんと呼ばれた女の人は差し出した右手を下げたあと、小さく首を傾げた。

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