皆の先輩シリーズ | ナノ


▼ 大公爵アスタロトB(2/2)

「……私が、陽太を殺したようなものだ」

カガリがぽつりと呟く。
フェンスを握る手に力が入ったのか、微かに鈍い音が耳に届いた。
その時、コンクリートの床に雨粒が一つ落ちた。雨は徐々に強くなり、本格的に降り出す。

「それは、違うだろう。彼は病気で」
「違わない!」

カガリは振り返り、激昂した。雨に打たれながら目に涙を浮かべ、私を睨み上げる。
私は、黙らざるを得なかった。なにせ彼女がここまで感情を爆発させたのは初めてだったから。
カガリは、今の自分が許せないのだ。知っていたにも関わらず、なにも出来なかったと自分を責めている。
きっと彼女は今まで色んなものを見て、割り切ってきたのだろう。
けれど、今回だけは違った。
好きになった男児に訪れる死を、知ってしまった。齢十二の女児に、その事実はあまりに重過ぎる。

「……私は、陽太が死ぬことを知っていたんだ。なのに、私は」

奥歯を噛み締めて俯くカガリの手を取り、引き寄せる。自分が考えていたよりもずっと小さな体だった。

「カガリ。今すぐとは言わない。だが、いつか必ず未門陽太の死を割り切ると約束してくれ」

でないと、きみの心が潰れてしまう。
そう言うしかなかった。
カガリは私に抱き締められたまま、声を上げて泣いた。
初めて子どもらしく泣いていた。
カガリが人間の未門陽太ではなく悪魔の私を好きになってくれたら、こんなことにはならなかったのではないか。
そんなことを考えてしまう自分がいとわしい。

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