――僕を、『殺して』ほしい。
 そう言った天使の表情は、まるで日溜まりのように、優しく穏やかなものだった。咄嗟に、ボクはその天使の柔く幼い体躯を、力一杯抱き締める。未だ生命の温もりを、僅かながらに宿しているその肉体。その事実を確認して、そっと安堵する。ボクの行為に応えるかのように、天使の小さな唇がまた一つ言葉を紡ぐ。
 ――他の誰でも無く、君の手で……
 天使の小さな掌が、ボクの手に優しく重なる。その瞬間、ボクは恍惚した。遂にこの時が来たのだ、と。ボクの全身は、興奮と悦楽と――何よりも幸福を覚えていた。こんなにも美しいものを、自らの手で葬ることが出来る。嗚呼、それこそが――ボクにとって至上の悦びなのだから……
 その日、ボクは夢を見た。美しくも儚い神の御使いを、この諸手で葬る……


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