共依存
「嘘吐き」
唐突に突き出された言葉。それは、僕にお似合いだと感じた。
割れたグラス。ヒステリックな叫び声。滴る涙。じんわりと熱を持ち始める頬。すぐ近くにあるはずなのに、違う世界にあるように見えた。
喚き声はまだ響いている。時計の長針がかちりと動いた。2時を知らせる音が鳴り響く。もう何時間もこんなことを繰り返している。君は飽きないのだろうか。僕はとっくに飽きているよ。しかし、それを口に出したところで彼女は聞く耳を持たないだろう。
朝日がカーテンの隙間から覗く。彼女はすっかり疲労し切っている。最早最初の頃の勢いは無い。座り込んだまま、僕に罵声を浴びせ続けた。君は懲りないね。いい加減、僕を解放してくれよ。僕はひっそりとそう思った。すると、何笑ってんのよと彼女が空き缶を投げつけてくる。顔に出てしまっていたか。僕も相当疲れているらしい。
日はすっかり昇りきっていた。僕は仕事を無断欠席せざるを得なかった。彼女は遂に倒れ込む。それでも、僕を罵ることは止めなかった。凄い執念だね。僕にはほとほと真似出来ないよ。彼女はまた泣き出した。
夕焼けが目に染みる午後5時。彼女の口数は明らかに少なくなっていた。僕の足元で、ごろりと力無く寝転がっている。彼女は、僕に縛り付けられてるといつも言う。でも、僕の方がよっぽど君に縛り付けられているよ。彼女は乾いた目尻を擦った。
彼女はまた言う。
「嘘吐き」
君がそう言うのならば、僕はまた嘘を吐くよ。そうして、僕らは繋がっているのだから。
僕は彼女に言う。
「愛してるよ」
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