暗褐色の走馬灯

 真っ暗な部屋の中にいた。完全に真っ暗な訳では無い。カーテンの隙間から、煌々とした光が漏れていた。この向こう側はきっと、騒がしいのだろう。しかし全てを閉ざした部屋の中では、それを実感することは無い。私は壁に寄り掛かり、足を抱え込んで座っていた。私は溜め息を吐いて、宙を見上げる。白い天井に光が瞬いているのが見えた。その光を見つめている内に、私は遠い昔のことを思い出す。
 小さな頃から、失敗ばかりの人生だった。間違いをして、諫められてばかりだった。自分の悪いところを認めようとはしない、狡猾な人間だった。
 ある程度成長すると、それではいけないと感じるようになっていった。それからは失敗しないように、間違いを犯さないように、慎重に生きるようになった。誰にでも良い人であろうとした。友人も適度に出来た。友人が馬鹿をやっても、自分はそれに乗らなかった。善人であろうとしたからだ。
 結果的に、それらが全て良い方へ流れた訳では無かった。ある日、一緒に遊んでいた友人に、君はつまらない人間だね、と言われた。その時、私にはその言葉の意味がわからなかった。私は精一杯楽しく生きていたつもりだった。何も間違っていないはずだ、と。私はわからないまま、傷付き落ち込んだ。
 それから私は、他人と関わり合うことを諦めた。どうせ友人になっても、私はつまらない人間だから、結局皆離れて行くのだ。そして、私は独りになった。
 それからの人生は、ぼんやりとしたものだった。憧れていた夢もいつの間にか諦め、流されるままに無難な職に就いた。それからはただ、何も無い日々が流れていくだけ。何も得ること無く、何も感じること無く。
 何も無い日々の中で、私はふと気が付いた。私なんか、この世界に必要の無い存在なのだと。この世界は美しく光り輝いているのに、自分の方に光を照らされることは無い。それならば、この世にいないのと同じこと。そう気付いてしまったのだ。
 そこまで回想したところで、私は目を伏せる。純粋な暗闇が、私の目の前に訪れた。
 世界が終わってしまえばいい、と思ったこともあった。しかし、幾ら願ったところで、それは叶うはずの無い幻想なのだ。ならば、残された方法は一つ。私が消えていなくなってしまえばいい。その結論に至ったのは、一昨日のこと。どうして今まで、こんな簡単なことに気が付かなかったのだろう。結局、私は最後まで失敗していたのだ。

 私は上を向いた。私の頭上には、圧迫する天井ではなく、どこまでも澄みきった星空が広がっていた。あの星々の中には、既に命を燃やし尽くしてしまったものもあるだろう。それでもこの地球から見れば、未だ美しく輝いている。私もそんな風に生きられたら、どんなに素晴らしかったか。幾ら考えても後悔しても、最早意味は無かった。
 私は僅かに涙を流して、狭い足場から一歩踏み出す。

「つまらない人生でした」

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