25時の遊歩

 静寂に包まれた午前1時。僕はジャケットを羽織って靴紐を結んだ。部屋の電気を消して、扉を引く。まだ冷たい夜の空気が僕の顔を通り抜けた。その冷たさとは逆にに、僕の身体はある種の興奮と期待で火照っていた。
 家の前に出る。僕の住む場所は、眩く騒々しい街から離れた所にあった。そのため道路は狭く、照らす明かりは薄暗い電灯だけ。深夜に出歩く人影も無く、どこか遠い世界に来てしまったかのような雰囲気を醸し出していた。僕は当てもなく歩き出す。
 三叉路に辿り着く。それぞれの道の前に、標識がぽつんと立っていた。侘しい道の真ん中で、僕は一瞬立ち止まる。僕が立つ右側に伸びている道を行くと、繁華街へ抜ける。道の先から僅かに人々のざわめきが聞こえた。僕はそれを無視して、真っ直ぐに進む。
 自動車の行き交う道路の前に辿り着く。交通量はさほど多くなかったが、信号は設置されていた。信号は赤。僕は否応なしに足を止められる。自動車と二輪車がそれぞれ一台通り過ぎた後、信号が青く光った。僕はまた歩き始める。
 不意に明るい光に染まった場所が現れる。コンビニだった。深夜であったが、数人の人影が見えた。雑誌を読む者、店内を物色する者、何かを買った者、それを精算する者。彼らは何か目的があって、そこに辿り着いたのだろうか。そんな考えを即座に宙へ捨て、僕は歩き続ける。
 どれくらい歩いただろう。携帯を取り出そうとポケットを探るが、それらしき物は入って無かった。まあいいやと諦めて、僕は空を見上げる。電灯や繁華街からの光のせいで、星は殆ど見えない。ただ一等星の明かりだけは、ほんのりと輝いていた。あれはシリウスだっただろうか。適当に思い浮かべた星の名前が、合っているのか間違っているのか僕にはわからない。
 急に視界が開けた。僕の目の前には、河川敷が広がっていた。恐らく、海へ続いているのであろう水の流れ。静かに、しかし確かな質量を持って、雄大に存在していた。水面は対岸のビル群の光を照り返して煌めいていた。水の匂いが混じった風が、僕を通り抜けた。僕は足を止めて、その景色を眺める。更に異世界へ来てしまったかのような情景。僕は目を瞑る。水が流れる音が聞こえる。まるで、街が喧騒を忘れてしまったかのようだった。
 今日の終着点は、ここだったようだ。僕は川に背を向けて、また歩き出す。今度は現実に帰る散歩だ。僕は明日の予定を頭に思い描きながら帰路に就く。

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