恋する天使

僕は神の御使いである。僕は禁忌に手を染めてしまった。人間に恋をしてしまったのである。僕は彼女の恋を成就させなければならないのだけれども、どうしてもこの矢を射ることが出来なかった。神から何度も叱責を受けたが、どうしてもこの指は動かなかった。彼女は美しかった。そして慈しみがあり、高潔さと気品を漂わせていた。しかし、彼女は恋をしていた。隣のクラスの男子生徒。誰からも好かれる彼女は、当然彼からも好意を寄せられていた。つまり、この恋は既に完結していると言っても過言では無いのだ。どうして、彼女は人間なのだろう、どうして、僕は天使なんだろう、と疑問を呈することもあった。どうしても越えられない運命、種族の違い、一方通行の想い。僕は靄がかる思考の中、また放てもしない矢を構えた。その瞬間、右後方から黒い何かが飛んできて、彼女の身体に刺さった。あれは、と勘づき咄嗟に振り向く。案の定、そこには堕天使がいた。生物を不幸にせしめる真っ黒な神の御使い。僕はもう一度彼女の方を見る。彼女の挙動は明らかにおかしくなっていた。ふらふらとしていて、今にも倒れそうになっている。助けたい。しかしこの腕では彼女に決して届かないのだ。よろめく彼女に、同様にふらつく大型車。程無くして、大きな破壊音が響いた。すると僕の元から運命の矢が塵となって消えた。対象となる生物の生命が尽きた証だ。これで、僕は思い悩む必要は無くなる。そう、これで良かったのだ。黒く成り行く右手を眺めながら、僕はそう妄信した。

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