夢の管理者

皆様、『夢』が何か御存知だろうか?当然のことを吐かすなと仰られるかもしれない。『夢』とは、生物が眠っている間にみる幻想。将来の希望や未来への展望では無い方だ。では、その『夢』という現象は如何にして起こるのか。人間の研究では未だ解明に至らないらしいが、それもそのはず、『夢』とは人間が感知し得ない領域の現象だからだ。『夢』を観測し管理する……それを『夢の管理者』と我々は自称している。人間の中には我々の存在を僅かばかりに感知して想像した者もいたようで、『貘』なんかという名の方が著名かもしれない。
これを前提においてもらって、それから僕の話に入ろうかと思う。僕の、『夢の管理者』の、『貘』の話。
夢の狭間をぶらりぶらりとさ迷っていたところ、ちょうど眼下に寝入ろうとしている人間の姿が垣間見えた。僕は高度を落とし、その人間のエリアへ足を踏み入れる。人間はまだ睡眠状態へ移行していなかった。僕はその間に夢管理端末(デバイス)『オネイロス』を開いた。ところで生物が睡眠する時、レム睡眠とノンレム睡眠という二つの状態が交互に入れ替わるというのは衆知の事実だろう。僕達はその内のノンレム睡眠時に夢の管理を行っているのだ。『オネイロス』を操作し、この人間の『夢』の記録を閲覧する。ここ最近は悪い夢ばかりを見ているようだ。ならば、と今度は『夢』のストックから『人間専用』フォルダを開き、『良い夢』で絞りこむ。愛玩動物と戯れる夢。これでいいだろう、と決定ボタンをクリックする。すると『オネイロス』の背面にあるDD(夢ディスク)出力口がキラキラと輝き出し、一瞬きの後、一センチ四方の小さなチップが排出された。これが『夢ディスク』という、夢の内容が記憶された使い捨てのチップである。これをノンレム睡眠状態の生物の頭に押し付け、吸収されたら一仕事終わりである。僕もさっさとこれを先程の人間に押し付け、次の仕事に移ろうとした。その瞬間だった。
「あ……?いつの間に……!」
人間は既に眠っていた。かなり魘されながら。また奴の仕業か、と僕は面倒に頭を掻く。どうにも嫌だが、やるしかない。僕は『オネイロス』のあるスイッチを押した。
「……形態変更(モードチェンジ)」
僕の身体の内部が熱くなっていく。表皮からは硬い毛が生え、頭部の形も変わっていく。そうして、化け物の形態へ完全に切り替わると、僕は人間の頭に前足を突っ込んだ。人間は唸り声を上げる。前足に忌々しい感覚が当たったのを確認して、引っ掴み取り出した。グロテスクな暗黒の『悪夢』。それを完全に引き摺り出してから、僕は思い切りそいつに噛りついた。苦く、とても旨いとは言えない『夢』を僕は必死に平らげた。全て食い付くしたところで、DDを人間の頭にすぐさま押し付けた。程無くして、人間は安らかな寝息を立て始める。無事に終わったようだ。僕は『オネイロス』を閉じる。すると一瞬で『化け物』の形態から元の状態へと戻った。またあいつに邪魔されたみたいだ。僕の頭に浮かぶのは、憎々しいあの笑い顔。……次に会ったら、あいつを頭から喰ってやる。僕はそう誓ってまた夢の狭間へと飛んだ。

back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -