宵待ち

日暮れの空に月がそろそろと顔を出し始めた頃。僕は家路を急いでいた。大会前のこの時期、弱小と言えど、どの部活も日没近くまで練習に励んでいた。僕もその内の一人で、出場出来るわけでもないのに練習を行っていた。正直、不毛と言わざるを得ない。こんなことに時間を掛けるくらいなら、勉学に励んだ方がよっぽどましだ、と口ごもる。不意に空を見上げると、一つ星が煌めいていた。
「一番星……」
独りぼっちの、一番星。彼もご苦労なことだ、こんな早い時間から光出して。無意味な同情を呈してから足を踏み出す。
「夜を待っているんだ」
突然、横から声が聞こえた。慌てて振り向くと、そこには見知らぬ少年がいた。髪や瞳が輝いていたその少年は、どこか見覚えのある顔をしていた。あり得ないはずなのに。
「皆が現れるまで、待っているんだ、彼は。それが彼の仕事だから」
少年は僕に語りかけるわけでも無く、まっすぐ空を見据えて呟く。僕は、何故かそんな彼から目を離せなかった。
「ほら、二番星だよ」
少年が指差す方向に自然と視線が動いていた。大分日も落ちて群青色になり始めた空に、流れ星が一つ、現れて消えた。そして一番星のすぐ近く、もう一つ星が輝き始めた。少年へと視線を戻す。だが、そこにはもう誰もいなかった。疲れが見せた幻想だったのだろう、と僕は結論付けて再び家路を急いだ。夜を待っているのは、僕も同じだった。

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