滑らかな葛藤

月明かりの下、濡れたように漂う黒い髪と珠のように輝く白い肌が目に入る。横で静かに寝息を立てる存在に、僕は確かに欲情していた。守るべき小さな頬、鼻、唇、その全てが親愛の情を越えて愛しかった。どうにもならない気持ちで寝床を抜け出す。冷たい夜の空気が僕を責め立てているようだった。どうして僕は、こんなにも醜い存在なんだろう。扉を開ける、そこには宙吊りの肢体があった。どうしてまだ、そこにいるのだろう。もう、終わりにしないか。足取り重く、肢体を叩いた。
「見逃してくれないんだ」
いつもいつも、と奴は口を開く。だって、お前はいつもそれを望んでいるじゃないか。
「人は、生涯でたった一つのものしか手に入れられない、ってわかってるよね?」
二兎を追う者は一兎をも得ず。惨めなロープを捨てる僕に、奴はなおも語りかける。煩いな、わかっているさ、それも聞いているじゃないか、いつもいつも。
「いい加減、選んだらどうだい」
冷たい奴の言葉は容赦無い。僕がいつも目を背け続けている事実に。僕が気付きたくもない現実に。
「そうじゃないと、延々この箱の中だ」
隣で眠っている彼を思い浮かべる。答えは明白、なのに僕はどうしてもその道を選び取れないのだ。僕が口を噤んでいると、奴は嘲笑って扉を開けた。
「そうか、ならずっと葛藤していればいいさ、ずっと一人で」
扉は無情にも閉まる、隔てた世界、僕一人をおいて。そうだ、それがきっと正しいんだね。僕は項垂れた。窓の向こうは雨だった。

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