さよなら世界

今日、僕は決心した。この世界から抜け出すことに。
切欠は些細なことだった。ずっと憧れていた可愛いクラスメイトの女子が、実は年上の男と交際しているということが友人の口から語られたことが始まりだった。僕はその日一日憂鬱な面持ちでふらふらと過ごしていた。そんな折、いつの間にか校舎の端の、今は使われていない第二理科室の前を通りかかった。その時、理科室の内部で激しい光が炸裂して、僕は思わず目を伏せた。次の瞬間、理科室の扉に得体のしれない禍々しい暗黒の渦が現れていた。僕はすぐにピンと来た。これは、所謂次元の歪みとかワープホールとかいう類いの物ではないだろうか?SF小説が最近の流行りだったせいで、そんな突飛な考えが頭に浮かんでしまったのだろう。しかし、見れば見る程、そのような類いの物としか思えなくなってくる。僕がその穴に手を伸ばそうとした瞬間、予鈴のチャイムが鳴ったので、教室に戻ることになってしまった。僕はすぐにでも未知の暗闇を観察したい欲求に駆られた。しかし、次の授業で小テストやらなんだらがあったせいで、穴のことはすっかり頭の隅に追いやられてまった。
ここまでが一週間前の話。昨日のテストの結果が余りにも芳しくなかった僕は、不意にあの渦のことを思い出したのだ。そして、この世界で生きる気力も無くなっていた僕は、あのワープホールから別世界へ抜け出そうと考えたのだ。しかし、あれを見たのは一週間前のこと。まだあれが残っているかなんて定かでは無い。僕は祈るような気持ちで、第二理科室へと足を運んだ。
結果から言うと、第二理科室は存在していなかった。正確に記するなら、理科室は暗闇と化していた。そう、闇は一週間前より格段に大きくなっていたのだ。ともすれば、このまま世界中を飲み込んでしまいそうな程に。僕は流石に立ち尽くすしかなかった。こんなもの、ワープホールじゃなくてブラックホールじゃないか!僕は見なかったことにして立ち去ろうとした。しかし、後ろから突然強く背中を押され、僕は闇にへと落ちてしまった。最後に僕が見たのは――『僕』だった。
「今までこの世界を維持してくれていて、ありがとう『僕(スペア)』」
僕は『僕』の影となって、第二理科室ごと世界からいなくなった。

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