荒野に傘一つ

ジリジリと日差しが照り付ける。見渡す限りの不毛な大地。裸足の男はただひたすら前へと歩き続ける。
「日陰に入りませんか」
そんな荒れ地に立つ乞えた一本の木は男に語りかける。葉は殆ど無く、枝も痩せ細っていた木の影は、頼り無い小ささだった。男は不意に木を見遣る。あたかも木の声が男の耳に届いたかのように。否、実際に聞こえていたのかもしれない。男も飢えと暑さで、幻惑されていたのだから。男は木の幹に掌を擦り付けた。凹凸は無いが、触り心地が良いとはとても言えない幹だった。
「大丈夫ですか」
木はか細い枝を揺らして話し掛ける。微量な生温い風が男と木の間を擦り抜けた。男は宙を見上げる。見渡す限りの晴天が、男にとっては数多の敵よりも恐ろしく見えた。
「私は何も為すことが出来ないけれど」
糸のような枝に一匹、鳥が止まる。こんな不毛な土地に生きていても、鳥は美しく鳴いていた。
「木陰を作ることは出来ます」
木は悲しい程貧弱な枝を広げる。その間から煌めく太陽が容赦なく輝いていた。影など、殆どありはしなかった。
「ありがとう」
男は遂に跪いた。鳥が何処かへ飛んで行く。その後には折れた枝が一つ垂れ下がっていた。

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