『魔術』と『超能力』

「お前、またそんな本読んでんの?」
俗な科学雑誌を読んでいたところに、また奴が突っ掛かってきた。人工的な茶髪が相変わらず絶望的に似合っていない。僕は雑誌を閉じてそいつを見上げた。薄い顔に青いカラコンは致命的に浮いているから今すぐやめた方がいい。だがそんな忠告をする気にもなれず僕は痛々しい山田にこう述べた。
「お前はぺらい雑誌でさえ読まないんだろうな」
山田はそんなことはどうでもいいとばかりにどうでもいいことは語り始めた。
「そんなんだから、お前はいつまで経っても『魔力無(ゼロ)』判定なんだよ」
それとこれとは全く関係が無いと思うのだが、こいつは馬鹿だから仕様が無い。だが、それは苦々しいことに事実ではあった。僕は、この世界――魔術が一般的な技術、才能として衆知されている世界――において『魔力無』……つまりは役立たずなのだ。山田は得意気に笑って広げた掌から小さな火を出してみせる。山田の魔力は雀の涙程だが、扱える魔術は汎用性の高い『炎属性』だった。そのため、こいつはやたらとでかい顔をする。染髪したりカラコンを入れたりしたのもその事実が判明してからだ。わかりやすい。
この世界では、『魔術』が絶対であることが非常に不愉快だった。僕は山田を睨め付ける。馬鹿面を晒したままのこいつは、この図書館において非常に迷惑な存在であった。僕の眉間に皺が寄る。
「飛べ」
極僅かに呟いて山田に向かってデコピンする。すると、山田の身体は一気に宙に浮かんで、あっという間に開け放たれた窓の向こうへと飛んで行った。
僕には『魔術』は無い。だけど『超能力』はあるのだ。
図書館内の生徒達が異変に気付き始めてざわつき出したのを見計らって、僕は雑誌を棚に戻して図書館から抜け出した。

back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -