虚しい世界

 気付けば外は真っ暗だった。この部屋に閉じ込められてから、一体何日が経過しただろう。何も無いこの灰色の空間は、僕を空虚な気持ちにさせるには十分過ぎた。僕をこの部屋に閉じ込めた張本人は、未だに判然としない。食事は僕が眠っている隙に持ってきているらしく、夜が明け僕が目覚めると一日分の食料が閉ざされた扉の前に毎日置かれていた。一体何故、犯人は僕を軟禁するのか。この部屋には灯り等は存在せず、日が沈むと暗闇に包まれた。元々蛍光灯が嵌まっていたであろう天井の中心部は、今は電極等が晒け出されていた。綿の潰れた布団と、ぺらぺらの毛布、それから食べ終えた後の食器、多少の埃、そして僕、それ以外にこの部屋には何も無かった。最早敷物と変わらない布団に寝そべり、真っ暗な天井を見上げる。何も無い、故に何もすることが無い僕には、もう寝る以外にすることは見当たらなかった。
 不意に目が覚める。まだ室内は暗かった。夜明けまでにはまだ時間があるようだった。僕はむくりと起き上がる。扉の向こうで何かが動く気配がした。僕の寝惚けた頭が瞬時に冷える。犯人が食料を置きに来たのだ、間違いない。僕は息を殺して扉の前へ立った。足音が扉の前で止まる。ガチャガチャと錠の落ちる音。そして、取っ手が動く。その瞬間を僕は逃さなかった。僕は思い切り扉を引いて、生じた隙間から勢いよく飛び出した。そして、扉を開けた犯人に体当たりする。よろめいた犯人は部屋の中に転がり落ちた。僕はその勢いのまま扉を閉める。外側に付いていた鍵を掛け、僕はその場にへたり込んだ。心臓が異様に動いていた。手や額に汗が吹き出していた。遂に、僕は外に出たのだ。監禁生活から解放されたのだ。僕は安堵の息を吐いて、それから笑った。扉の向こうから強く扉を叩く音がする。監禁していたはずの人間が逆に監禁されたのだ、焦りもするだろう。今さっきまで監禁されていた身だったのに、随分と余裕が出たものだ、と客観的に自らを嘲った。さて、これからどうしたものか。いつの間にか、扉を叩く音は止んでいた。諦めたのだろう。僕は哀れな内側の人間を嘲笑い、外へ出るため歩き出した。その足取りは、いつに無く軽やかだった。少し歩いたところで扉が現れた。これを開けば、元の世界へ帰れるのだ。僕は扉に手を掛けた。しかし、扉は開かない。そうか、鍵を開けなければ。僕は取っ手を探った。しかし、それらしいものは見当たらない。何故だ。僕の心中に焦りが生じる。もしかして、と僕は思い至る。この場所自体が一つの監禁場所なのではないか。僕は扉を叩く。
「誰か、ここから出してくれ!」
 虚しい叫びはどこにも届かず、ただ空中に霧散した。

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