幸せの形

「君は大層嘘吐きだね」
 突然、そんな言葉を突き付けられた僕は、ただ頭を上下に振り肯定する他無かった。その言葉の通り、僕は大層な嘘吐きだったからだ。何を言われても頷き、そして何もしない。そんな僕を最初は皆、一緒にいて楽な人間だと思い込んで接してくるが、次第に中身の無い、それしか無い、ただの嘘吐きなんだというぼろが出て来ると、皆自然と僕から遠ざかっていった。しかし、そんな中でただ一人、今目の前で僕を嘘吐きだと称した彼は、僕の中身が幾ら知れても僕から離れることは無かった。僕の不快さが露呈される度、彼は今みたいに僕を罵るだけで、僕との縁を切ろうとはしなかった。何故だろう、と考えはしたが、どうせ聞いたところですぐに忘れるから僕は何も聞かなかった。それが、僕達の正しい在り方だと思っていたからだ。
「君みたいな人間、皆から見捨てられるよ」
 普通なら傷付くであろう言葉も、僕にとってはただの事実でしか無い。故に、僕を幾ら罵っても意味は無いということは、彼も十分承知のはずだ。なのに、彼は毎回何度も僕を罵倒する。それが義務であるかのように。僕自身、聞き流せばいいはずなのに、毎回何度も彼の言葉を聞き入れてしまっていた。何故か。多分、何と無く、だろう。毎回何度も僕は罵声を聞いて、僕は何も言わずに聞き入れる。それはまるで、投げ捨てられるゴミと、それを受け入れるだけのゴミ箱のようでもあった。僕はゴミ箱に徹していればいい。そうすれば、いずれ彼はゴミ屑を投げることを諦めてしまうから。
「どうして」
 いつもなら、このまま僕が無言を貫いて、結果彼が諦めて口を閉ざしてしまう、という構図になっていた。しかし、僕は不意に呟いてしまった。いつも思っていることを、突然、このタイミングで。僕自身、どうして、と聞きたいくらいだった。彼は案の定、不可解な顔でこちらを見つめている。何か、言葉を続けなければ。僕は咄嗟にそう思ってしまった。素知らぬ顔で沈黙を貫くのが正解だったはずなのに。
「君は、そうまでして、どうして僕の側にいるの」
 疑問のような、独り言のような僕の言葉は曖昧に浮かぶ。これで、彼との関係も遂に終焉を迎えるのだろう。僕は諦めた目を彼に向けた。彼も同じような顔をしているに違いない、と思いながら。だが、彼は違った。彼は少し呆れつつも温かな顔をしていた。
「そんなことも知らずにいたのか」
 そして、優しく柔く、笑った。
「君のことが大好きだから、に決まってるだろう?」
 そうして彼は僕を確と抱き締めてきた。漸く僕は合点がいった。僕は、彼のことを愛していたのだ、心の底から。胸の中の歪な欠片達が、今この瞬間、ぴたりと噛み合った気がした。多分これが、幸せの形なのかもしれない。僕は彼の背中に手を伸ばした。

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