あいわなびー

 かつての自分が見える。秀才だと褒められ、勉学に励んでいた時代。両親や親戚らの期待を一身に背負い、同年代がするような遊びから目を背け、ひたすらに努力した。時には逃げ出したくなるような思いにも襲われた。しかし、僕はそれを必死に躱して、自らの目標のために頑張った。それから時は流れ、僕の努力は遂に報われた。何故なら、僕は今世界中から注目を浴びる存在となったからだ。

 目が覚めた時、もう3時だった。勿論午後。臆すること無く大きな欠伸をして、起き上がる。嫌な夢を見た。過去の馬鹿な自分と、存在しない理想の自分。夢の中の煌めきと、今の自分の不甲斐なさを比べてしまい、辟易した。
緩慢に布団から抜け出して、携帯を開く。メールが何通も来ていた。その全てが、意味の無い迷惑メールだった。俺はそれらを未開封のまま、一括削除した。メールボックスは一気に空っぽになる。もう何年も、迷惑メール以外のものが来たことは無い。母は、使い道が無いのなら解約しなさいと言っていたが、俺にはそれが出来なかった。俺の数少ない私物だったからだ。これからも迷惑メールを受信するしかない憐れな携帯を俺は閉じる。
 居間へ足を踏み入れる。がらんどうとした室内。両親は出払っていた。俺は戸棚の中を探る。ポテトチップスの袋を2つ引っ掴み、ソファに座った。リモコンでテレビの電源を入れ、適当にチャンネルを切り替える。どの局も、ドラマの再放送ばかりだった。俺は適当なチャンネルで止めて、ぼんやりとドラマを眺めていた。陳腐な恋愛物で、恋人同士になった途端に女の病気が発覚、そして為す術無く死ぬ、というストーリーだった。ありきたり過ぎて眠くなってくる。しかし、俺は何と無くそれを見続けていた。
 俺には夢があった。作家になる、という大それた夢。俺は学生の頃からこそこそと物語を書き綴っていた。ある時、自分でも納得いく出来の物語が出来上がった。その時、丁度著名な賞の応募期間中だった。俺は意気揚々とその賞に応募した。結果は、どうしようも無かった。夢は、所詮夢だったのだ。それでも俺は酷く落ち込んで、暫く引き込もってしまった。その結果、成績は下がり、授業には置いていかれ、最後には退学してしまった。そして、今の俺は何もしないまま、怠惰に時わを過ごしているのだ。
 変わらなければならない、とは理解している。しかし、俺は現実と向き合うのが怖かった。俺は怠慢の証拠である突き出た腹を眺める。その時テレビから、君を失うのが怖いんだよ、と言う俳優の台詞が流れた。

 そこまで書き綴ったところで、母が僕を呼ぶ声が聞こえた。僕はそれに答えながら、ノートを閉じる。誰に見せるわけでも無い、稚拙な文章が書かれたノートを。
 僕も夢を見ているのだ。叶うはずの無い夢を。

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