白昼夢

 それは、僕の目の前に突然現れた。
 僕はいつものようにぷらぷらと、何の当ても無く街をさ迷っていた。イヤホンから最近お気に入りの曲を耳の奥にぶち込み、 コートのポケットに手を突っ込んで。寒いと心中で愚痴るも、口から飛び出るのは透明な空気ばかりで、訳も無く苛立ちを覚えたり。そんな感じで人混みの中をするすると歩いていた。
 道の角、ファストフード店の前で、僕は立ち止まる。信号が赤を示していたからだ。今まで淀みなく歩き続けていたのが、水を差されたようで若干不機嫌になる。車道を挟んだ両側に、どんどんと人が集ってくる。その有象無象の中の一人になって、 僕はぼんやり立ち尽くす。このたくさんの人の中で、果たして僕と同じ曲を聞いている人間はいるのだろうか。アウトロのドラムが煩く鳴り響き、僕は手中のプレーヤーを弄った。その時、煩く鼓膜を震わせていた音が唐突に止んだ。慌ててプレーヤーを取り出そうとした時、ふと強い視線を感じた。思わず顔を上げると、目の前の景色は――灰色に染まって時を止めていた。有り得ない、超常現象。僕は、白昼夢でも見ているのか? どうしようも無く立ち尽くしていると、道路の向こう側の人混みの中に、白い光を放つ存在がいた。必死で目を凝らすと、その存在の相貌が見えてきた。白銀の髪に真っ白な服。白い肌に紅く輝く瞳。この世のものとは思えない少女だった。まるで、天使のようだ。そんなありきたりな形容が心に浮かぶ。少女はこちらの存在に気付くと、ふわりと優しく笑んだ。その余りの美しさに、思わず胸が高鳴る。少女の姿から目を逸らせないでいると、不意に少女がぱちんと指を鳴らした。その音がやけに大きく聞こえたことに疑問を覚えた瞬間、目の前の景色に色が戻った。――一体何だったんだ? 再び流れ始めた音楽も耳に入らないまま顔を上げると、車道から大きく逸れた大型車が目前に迫ってきていた。

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