温い殻の中

 ぽたり、と水滴が滴り落ちる。土砂降りの雨は、こつこつと窓を叩いていた。冬の冷たい空気に混じって降る雨は、じっとりと湿ってはいなくて苦手だ。湿った空気が好きな訳では無いけれど。窓の向こうを眺める。遠くの空は青色に光っている。もうすぐここいらも晴れるだろう。そんなどうでもいいことを考えながら、握り締めていた携帯を開く。真っ暗な画面。電源を入れると、画面は眩く輝く。白い光に照らされながら、着信履歴を開く。一斉に並んだのは知らない番号ばかり。わかりきっていたはずなのに、どうしても確かめずにはいられない。今度はメールの画面を開く。適当なフォルダを開いても、よくある迷惑メールの類いしか現れない。知ってる名前もアドレスも、 そこには存在しなかった。そんなこともわかっているはずなのに。
 僕は、誰とも繋がっていない。いつからか、僕は一人になっていた。人との繋がりを否定して、温い殻の中に籠ってしまっ た。だけれど僕は、こんな風にまだ繋がりを求めている。人は、誰かと繋がっていないと、不安になって他人を求めてしまうのだ。しかし、臆病な僕は、殻から出ることを拒んだ。なのに、僕は誰かと話をしたがるのだ。
 ウェブを立ち上げる。そこには、こんな臆病な僕でも存在出来る場所があった。――こちらは今酷く雨が降っているよ。そんなどうでもいいことを、不特定多数に発信するのだ。早く。早くしないと雨が止んでしまう。僕は画面をじっと見つめ待っていた。指が震える。早く。早く。しかし、繋がらない。何故だ? ウェブは強制的に終了してしまう。僕は混乱した。どうして。壊れた? まさか。ふと、画面上部を見遣る。二個に減った電池のマークの隣には、圏外の文字。ああ、そんな単純なこ とで。僕は顔を上げる。目に映るのは、汚ならしい天井の模様。こんなことで、僕の心は不安定になってしまうのか。携帯を投げ捨てる。衝突音は雨音に紛れて消えた。綿の減った殻のような布団に包まる。ぐっと布団を握り締める。冷えきった頬には熱い滴が雨のように流れて始めていた。

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