崩壊の前途

 雨がしとしとと降っている。透明な窓は雨に濡れそぼって、向こう側の景色をぐにゃりと歪めて映していた。湿気た空気にきんと冴え渡る温度。冬の雨は、良いことが一つも無くて憂鬱だった。カーテンを締める。外の世界は見たくなかった。僕は布団に潜り込む。そして、夢想する。僕が恋い焦がれるあの人のことを。そうすることで、憂鬱な気持ちも少しは晴れるだろう。
 僕があの人と出会ったのは春のことだ。同じクラスで、席が隣という偶然。そこで僕はあの人に一目惚れしてしまったのだ。あの人は綺麗な人で、誰にでも分け隔て無く優しかった。まるで神様のような存在。僕はそう感じていた。それから、毎日があの人のことでいっぱいになった。あの人を汚すような妄想もした。あの人を僕の手中に収められたら……そんなことばかりを考えていた。しかし、何も進展は無く、冬にまでなってしまっていた。あと数ヶ月で、あの人とはお別れだ。そう考え始めると、また僕は憂鬱になっていった。失敗だ。今度はあの人を汚す妄想でもしようか。僕がきゅっと目を瞑った瞬間、遠くでチャイムの鳴る音が聞こえた。そうだ。今日はあの人を家に呼んでいたんだ。僕は転げ落ちそうな勢いで玄関まで走る。そっと開けた扉の向こうには、いつも通り優しい笑顔を湛えたあの人がいた。僕は軽く挨拶を済ませてからあの人を部屋に上げる。部屋の扉を閉めたと同時に、あの人は口を開く。

「ところで、俺に何の用事なんだ?」

 僕は気付かれないように笑んだ。

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