朝起きて、顔を洗う。冷たい水に濡れたまま顔を上げると、鏡に映った自分の顔が浮かび上がっていた。水滴が顎からぽたりと垂れるのが見える。無表情でぼんやりしている顔は、余りにも不細工で見ていられなかった。タオルで顔を拭いて、また鏡の中の自分と睨み合う。短い髪の毛があちこちに撥ねていた。それらを手でぺたぺたと押し付ける。ようやっと落ち着いて、また鏡と睨み合う。どこにでもいる、典型的な日本人の顔。何の面白みも無いその顔に殴り掛かる。ぱりん、と音がして、その顔は粉々に砕け散った。きらきらと輝く欠片がぽろぽろと落ちる。目の前にはヒビの入ったガラス。最早鏡としての利用価値は無いだろう。そこに、自分の顔がぎざぎざと映っていた。ヒビの狭間に、幾つものくたびれた男の顔が見える。今日で、この顔ともおさらばだ。血の滲む右手をぐっと握り締めながら、僕は何年も引き籠っていた部屋から飛び出した。

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